第 1講 今なぜ知的財産権が注目されるのか(4/4) PDF  

細川 学(2006年08月)

第1講の補足説明

  1. プロパテントの定義
    1. 制度の存立価値がある
    2. 権利の有効性の判定が権利者に有利
    3. 均等の範囲を拡大
    4. 属地主義の拡大
    5. 侵害救済の額(賠償金)、手続、期間(暫定及び最終)で権利者を優遇
    6. 独禁法(反トラスト法)緩和の法理→シカゴ学派の台頭
  2. シカゴ学派
    1. カゴ大学の経済学グループ
    2. 市場原理や自由競争を重視する経済システムの研究
    3. USA のレーガン政権(1980~88年、共和党)はシカゴ学派の経済システムを採用し、ヤング・レポート(1985年)を受けてプロパテント政策を採用した。
  3. シカゴ学派による反トラスト法のナイン・ノー・ノーズ(Nine No-No's)の放棄
    1. 特許ライセンス契約の制限条項の内、従来は当然違法と見られていた以下の9項目が合理の原則により、個別に判断されることになった。(1)抱き合わせ条項、(2)グランド・バック条項、(3)再販売の制限、(4)競争品取り扱い制限条項、(5)排他的ライセンス条項、(6)一括ライセンス条項、(7)不当ロイヤルテイ、(8)製法特許の最終製品の制限条項、(9)販売価格の制限条項
    2. パテントミスユースの条件の緩和
  4. ヤング・レポート
    1. 1985年1月、当時のH&P社長ジョン・ヤングを座長とする産業競争力に関する委員会(The President's Commission on Industrial Competitiveness)は「世界的競争・新現実」(Global Competition/The New Reality)=ヤング・レポート=を発表した。
    2. このレポートの第2部付属資料D項において、知的財産保護の国内外の現状分析をした上で、米国の競争力を強化するための内外政策を提言された。
    3. レーガン政権はこの提言を基に1988年包括貿易・競争力強化法を成立させた。知的財産関係の主な法令改正は以下の項目である。
      1. 特許法第271条(g)項を新設し、方法特許の適用範囲を拡大した。
      2. 米国特許法第287条(b)項を改正し、方法特許の侵害品の輸入に対する権利者の特許番号表示義務を軽減した。
      3. 米国特許法第295条を改正し、方法特許の製造方法に関する立証責任を被疑者に転嫁させた。1994年Pfizer事件
      4. 反トラストを緩和し、特許法第 271条(d)項(5)を特許権の乱用でないとした。
      5. 米国関税法第337条を改正、特許法第271条(g)項侵害品の輸入差し止めを容易にした。
      6. 日米2国間協議によりわが国の工業所有権法は大幅に改正された。別講参照
      7. 多国間協議により、BIRPI(知的所有権保護連合)はWIPO(世界知的所有権機構)に、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)はWTO(世界貿易機構)に改組された。別講参照
      8. 1982年に設立された米国のCAFC(Court of Appeals for the Federal Circuit、連邦巡回控訴裁判所)における1995年Hilton事件判決は、特許事件は特許裁判所でとする流れを醸成した。別講参照
  5. 特許権が企業経営に強力なインパクトを与えた例
    1. グラクソ・ウエルカム社の「ザンタック」(抗潰瘍剤)の特許権は1997 年に製品特許権の期間が満了した。
      1. 特許権満了前の売上高=6億8600万ドル/6カ月
      2. 特許権満了後の売上高=1億6700万ドル/6カ月
      3. 特許権切れで売上は1/4以下に激減した。
    2. ミノルタは米国ハネウェル社に1億2750ドル(約166 億円)支払って和解自動焦点カメラ米国特許 、1992年2月8日、日経
    3. わが国の医薬メーカは英国医薬品メーカとの特許訴訟に敗訴し、30億円の損害賠償の判決:胃薬の製造方法に関する日本特許、東京地裁 1998年10月12日判決
  6. 用語の解説
    1. 知的財産:Intellectual Property
    2. 知的財産権:Intellectual Property Right
    3. 「工業所有権=Industrial Property Right」:わが国では一般に特許、実用新案、意匠および商標(工業所有権4法という)をさす。現在の英文はIntellectual Property Rightの用語が使われているが、厳密には知的財産権との同意語ではない。
    4. 知的財産には工業所有権、著作権=Copyright及び営業秘密を包含するが、営業秘密=Trade Secret は法定の「権」ではないので、厳密には知的財産権には含まれない。
    5. 営業秘密を保護する不正競争防止法は営業秘密という権利を付与する法律ではなく、競争秩序維持法である。
    6. 知的財産権は通常の財産権と区別して「無体財産権」とも言われている。
    7. 国際的には工業所有権を保護するパリ条約(1883年成立)と著作権を保護するベルヌ条約(1886年成立)がある。
    8. パリ条約には営業秘密が含まれているが、わが国では特許法でも著作権法でなく、不正競争防止法で保護されている。
    9. 知的財産とは人間の知的活動の成果と営業上の信用を示す標識を包含する概念である。知的活動の成果として、発明、考案、創作、標章等を化態した品物や著作物等の文化財となる。
    10. 知的財産を保護すべき理由に諸説があるが今日では「無体財産権説」が有力である。精神的産物が一種の無形の産物として社会に認知されている事実を直視し、有体財産権と区別され、所有権や人格権を包含する新たな権利であるとされている。
    11. OS:Operating System、コンピュータを作動させるための基本的ソフトウェア
  7. 1954年のたった1件の特許出願を元に分割出願、継続出願を繰り返して100件以上の特許権を取得し、世界の大企業より5億ドル以上の特許収入稼いだ町の発明家レメルソン氏(THE WALL STREET JOURNAL,1997.4.9)
  8. 憲法第11条[基本的人権の享有]
    国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことができない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。
    注:知的財産の人格権は基本的人権そのものである。
  9. プロパテント政策の推移