ぼちぼちいこか 「ワインの旅4」モンダビとコッポラ PDF

伴 勇貴 2003年07月 

ロバート・モンダビ 

Sさんと、次に訪れたのは、「オーパスワン」の入り口前の道路、29号をへだてた反対側にある「ロバート・モンダビ・ワイナリー」である。ワイン音痴の僕でも「モンダビ」の名前ぐらいは知っていた。カリフォルニア・ワインというと必ず出てくる名前である。「オーパスワン」が美味かったし、その共同設立者が興したワイナリーということもあって期待に胸を弾ませる。

2人とも勇んで出かけた。尖塔───これが包装紙のデザインにも採用されている───のある新館は今風の斬新な建物だが、それに繋がっている建物は、僕のイメージに合うワイナリーの雰囲気を漂わせている。

「オーパスワン」よりも、多くの観光客で溢れている。普通なら、それだけで顔をしかめるところだが、それだけ人気があるのだろう、それだけ美味いのだろう、とすべて良い方に考える。その歴史などを説明する資料館には入らず、一目散に試飲室に向かった。

試飲室も混んでいた。「オーパスワン」のようにうるさいことは言わない。多くの銘柄の試飲をさせてくれた。白ワインもあったので、珍しく、それも試した。しかし、いずれも、それほどの感激を引き起こさなかった。

赤はカベルネ(Cabernet)やメルロー(Merlot)、白はリースリング(Riesling) やシャルドネ(Chardonnay)などのブドウを原料としていた。白ワイン用のブドウはカナダのアイスワインの主な原料にもなっているものである。それでも結構な量を飲んだもので少し酔いが回った。それで、まだ行きたいところがあるので、早々に引き上げることにした。これが一度目の時である。

しかし、二度目に訪れたときには少し違った。初めから大きな期待はしていなかったし、それよりも、成功を納め、「ナパバレーの大使」などと言われるまでになった「モンダビ」そのものの歴史に興味があった。それで試飲はほどほどにしてワイナリーを探索した。展示を見て、ブドウ園にも足を運んだ。しかし、ちょいと目はともかく、やはり「オーパスワン」の方が、ブドウ園の手入れも行き届いているように思えた。

唯一の収穫と言えば、無料で会員になり、会員証を手に入れたことぐらいだろう。もっともメールアドレスを記入すれば、ワイン・ニュースを流すという話だったのだけれど、かるく半年は過ぎているのに一通も来ていない。もう少し待っても音沙汰なしだったら、問い合わせをしようと思っている。

なお、「ロバート・モンダビ・ワイナリー」は、1966年イタリア移民の息子ロバート・モンダビ氏とその家族が設立したもの。父の代から家族でワイナリーを経営していたが、ロバート氏は経営上の確執から家業を追われたため、自らワイナリーを設立したのだという。

経営上で対立したというのは、多分、ロバート氏が普通のワイナリーの経営者と比べてはるかにビジネスに長けていたためだと思われる。事実、独立した後、同氏はカリフォルニア・ワインを世界に広める立役者になった。世界各国に輸出する一方、チリやイタリアでも合弁会社を作り、ワイン製造を行う。さらに外食産業や食品産業と提携すると同時に、ワイナリーでのコンサート開催など文化活動にも力を入れ、そして1993年には株式上場を果たしたのだという。

ニーバウム・コッポラ・エステート・ワイナリー

Sさんと僕は次のワイナリーに急いだ。同じ29号線に沿ったところにある、「地獄の黙示録」や「ゴッド・ファーザー」などで知られる映画監督のコッポラ氏が経営しているワイナリーだ。そこにはコッポラ氏が監督した映画で使われた、もろもろの衣装から小道具などが展示されている。なかでも、同氏が監督した映画「タッカー」に出てくる、幻の名車「タッカー」もあるという。Sさんは、その話を始めると、それだけで、もう興奮していた。

「タッカー」───Sさんの話を聞きながら思い出した。第二次大戦の直前、デトロイト郊外の小さな街で、ビッグ3相手に、「夢の車」作りに情熱を燃やした男がいた。より速く、より優雅に美しく、優れた安全性と機能性をもつ理想の自動車を追求する。時速200キロぐらいで走る流線型の車だ。

その車は「タッカー・トーペード」として実現する。ところがビッグ3は、彼を叩き潰しにかかる。この実際にあった話をルーカスとコッポラが映画化した。夢をかき立てる一方で、現実の社会の凄まじさと暗部を感じさせる映画だった。

後で調べたら1988年の映画だった。この「夢」は、結局、潰されたが、その一端は現存する車からうかがえる。約50台しか作られなかった、この車がコッポラのワイナリーに展示されているという。

初めて実物を見た。とても50年以上前のデザインとは思えない新鮮さが漂っている。改めて、「夢」を持つことの素晴らしさに胸が一杯になる。同時に、こうした「夢」を持てなくなっている自分にフッと寂しくなった。

これに圧倒されたのか、正直言って、ワインのことはあまり覚えていない。まあ可もなく不可もなしだったと思う。数杯、試飲してワイナリーを後にした。もう、かなりいい気分になっていた。

もっとも昨年秋、「モンダビ」の後、再訪した際には、今度こそ、きちんと味を判断し、全体の雰囲気も楽しまなければという気持ちで臨んだ。ほろ酔い加減にはなったものの、僕は前回よりははるかにしっかりしている。

しかし、観光客は増え、従業員も3倍ぐらいになり、さらにコッポラ・グッズの店が試飲室を占領するようになっていた。ゆっくりワインの試飲を楽しむ余裕は持てなかった。列を作って、とりあえずコッポラの名前のついたグラスで試飲する。混み合っていて2種類を味合うので精一杯だった。

後ろからせっつかれる気分で、かつての熟成所に入る。しかし、並んでいる樽はすべて空。まさに映画のセットである。それでも、それなりの雰囲気にさせるから、見事としかいいようがない。ディズニーランドである。

出口にも売店があった。それを黙って通過すると、かつてとは見違える景観が飛び込んできた。造園工事と同時にレストラン建設をしているらしい。屋外にテーブルが用意され、そこでワインなどを楽しめるようになっているが、早晩、これは装いを新たにするのだろう。

ワイナリーを振り返ると、建物は同じだが、景観はまったく違っていた。いかにも年代を感じさせるたたずまいになっている。まさに演出である。

そして肝心のワインも、万人受けのする、口当たりの良いメルローが中心になっていた。まずいとは言わないが、やや物足りなかった。ワイナリーは綺麗になり、授業員の愛想も良くなり、まるでディズニーランドのようになっているのと同じで、ワインもつまらないものになっているように思った。

忘れてしまったワイナリーとレストラン

「オーパスワン」そして「モンダビ」、「コッポラ」。こまでは前回に倣って順調に来たのだが、その後は、今回はいただけなかった。Sさんと一緒の時は運転手兼ガイドがともかくワイン通だった。それほど有名ではないが、見逃せないワイナリーがいくつかあると言い、29号線を離れ、小さな趣のあるワイナリーに酔っぱらい2人を案内してくれた。そんな中の一つで2人は食事も楽しんだ。次の写真である。

そこにまた行きたいと思った。名前はまったく覚えてはいないが、写真はあるし、付近の景観などの記憶は残っているのだから、近くに行けば、すぐに思い出すだろうと簡単に考えた。それで出掛けた。

ところが、今度の運転手兼ガイドは、多くの団体客が殺到するワイナリーとかレストランしか知らなかった。いくら写真を示し、付近の景観のイメージを話しても、どの当たりか見当が付かないという。たしか幅広い29号線から1本内側の通りを行った、すると写真の美しい風景と洒落たレストランに出会ったなどと懸命に身に説明した。

ところが記憶にある風景はいくら走っても出てこない。下の写真の風景で、記憶しているものとは似ても似つかない。それが延々と続く。うろうろし回ったけれど分からない。

お陰で、ブドウ園の灌漑方法が良く分かった。穴の開いた金属チューブが敷設され、その穴から細い水が五〜十センチぐらいカーブを描いてブドウの木の根本付近に注がれていた。この方法がナパバレーの気候と土壌にもっとも適しているという説明だった。

しかし、空腹に耐えられなくなった。Sさんと一緒に回った瀟洒なワイナリーを探すことを諦めた。事前に調べておいてから、また来ようと決意し、運転手兼ガイドが知っている中で、お勧めのレストランに向かうことにした。

なお、日本に戻ってナパバレーの地図を調べたら、間違えた理由が分かった。次のページの地図で、中央の29号線にそって「コッポラ」に行ったところまでは良いのだが、そこで右折し、29号線と平行する道路にぶつかったところで、また右折してしまったのがいけなかった。目的地は「コッポラ」からさらに29号線を真っ直ぐ進み、地図で「黄緑」色に塗られている一帯に入り、そこで右折しなければいけなかった。矢印のとこが、写真に写っている、以前、Sさんと行ったワイナリーだった。

さらにナパバレーのホームページも見つかった。ここにアクセスすると、これよりもっと詳細な地図とワイナリーの説明なども掲載されていた。またナパバレーの隣の谷、「ソノマバレー」のホームページもあった。ナパほど有名ではないけれど、ここのワインも美味かったことを思い出した。事前に、しっかり調べ、再度、ソノマバレーを含め、ワイナリー巡りをやろうと改めて決意した。

今回の運転手兼ガイドが連れて行ったレストランは、懸念していたほど悪い雰囲気のところではなかった。もっともワインは、ワインリストを眺めた美味そうではない。食事だけで飲み物は水にした。ウェイトレスはそうにワインを勧めたが、もう飲み過ぎなので結構だと断った。それでもほろ酔い加減で木陰の椅子に座って、周囲の雰囲気に浸っていると、身も心もやいでくる。時が静かに流れた。

帰りには噂に聞いていたワイン列車に出会った。一日一往復。ワインと食事を楽しみながら、ナパバレーのセントヘレナまで行って、戻ってくるのだという。話の種に乗ってみるのも悪くはないと思った。                   (2003年夏)