ぼちぼちいこか 「ワインの旅1」バローロ PDF
伴 勇貴 2003年04月
バローロ(Barolo)
「ワインを送るから、飲んだ感想を欲しい」と、知人のYさんが言う。一昨年、仕事でドイツ、ハノーバーに出かけた。僕も一緒だったが、Yさんは、その帰りにイタリアに寄り、ワインをたくさん買ってきたのだという。
でも、イタリア・ワインに対するイメージはあまり良くない。23~26歳ころのほろ苦い想い出が直ぐ浮かんできてしまう。数日滞在したローマの民宿、その家族と夕食に大きなから注がれて一緒に飲んだ赤ワイン。気取って六本木のイタリアン・レストランで注文した赤のハウスワイン。いずれも美味くない。それにイタリアという言葉と色が赤ということから、薬のような味のカンパリソーダまでも思い浮かべてしまう。僕の原体験に近いものである。
イタリア・ブランドがもてされ、イタメシ・ブームが起きても、こんな潜在意識は消えなかった。数年前に仕事で、ピサ、フィレンツェ、ベネチアの工場を転々としたけれど、その時も食事とワインでは結構、苦労した。
それで「イタリア・ワインですか ─── 」と、やや不満げな表情をしたら、Yさんはムキになって言う。イタリア・ワインというと馬鹿にする人が多いが、だいたいフランス・ワインと言ったって、イタリア・ワインをブレンドしたものが多い。「桶買い」だ。それなのに生意気に値段を吊り上げている。イタリア・ワインは、相対的に値段は安いし、美味いものもある。その中でも、こんど買ってきた「バローロ」は美味い。飲んだことがないだろう。いいから、ともかく飲んでみろ! ─── という次第である。
「バローロ」と聞いて、これは美味いかもしれないと気を取り直した。美味いという話を聞いた記憶があったからだ。
一昨年、同年配、厳密に言うと4日年上のMさんと仕事でジュネーブに出かけたときのことである。Mさんは大学時代はダンス部で活躍、その後、いくつもの海外勤務を経験するといった経歴の持ち主。それから想像される通り、いわゆる洗練されたタイプである。容貌も身だしなみも物腰も、そして語り口も。もちろんワインにも強い。そのMさんとジュネーブで、訪問先の人たちとイタリア・レストランに入った。現地の人たちのお墨付きのところである。
そこでワイン談義が始まった。スイスでもワインを作っている。これが美味い。だが、生産量が少なく値段も高く、最近は輸入ワインに押されている。その中でもイタリア・ワインが費用対効果で人気を集めている。
「トスカーナ」のヤツはなかなかコクがあって、お勧めだ───こんな話を始めた。訪問先の人は相当のワイン好きだった。
僕は「スイスでもワインを作っているのですか。それは知らなかった」としかコメントできない。「トスカーナ」と聞いてもフィレンツェのある地域の名前であることとかオペラぐらいしか浮かんでこない。だが、Mさんは違う。「あれは良いですね」と話を受け、2人で延々とイタリア・ワインの話を始める。いろいろなイタリアの都市や地方の名前が飛び交う。馴染みのある名前もあれば、初耳の名前もある。ひたすら感心しながら聞いた。
そして、出てきた「トスカーナ」の赤ワインを飲んだ。たしかに美味かった。フルボディで、コクがあり、渋みもほどほどで、濃厚な料理にピッタリだった。香りはやや少ないが、口を飽きさせない。すぐに数本が空になった。
初めてイタリア・ワインも美味しいと思った。改めて、「通の2人」のイタリア・ワインに関するに聞き入った。
その2人の会話のでも「バローロ」という名前が出てきた。そして日本に戻ってから、改めてイタリア・ワインについて調べたら、いろいろ分かった。
トリノが州都のピエモンテ州。イタリア・ワインの王様「バローロ」を始め、「バルバレスコ」などのフルボディの高級赤ワインが作られている。ベネチアが州都のヴェネト州では良い白ワインが作られている。フィレンツェが州都のトスカーナ州はイタリア最大のワインの産地。「ブルネロ・ディ・モンタルチーノ」、「キャンティ」など高級ワインが作られている ─── こんなたぐいのことが、あちらこちらで紹介されていた。
「バローロ」と聞いて、こんなことを思い出し、嬉しくなった。実にいい加減なヤツだと自分で思う。懲りない飲兵衛だと思う。
届くのが待ち遠しくなった。Yさんから約束通りに、赤ワインが2本届いた。1982年と1990年のものだ。何かの機会に取り出して飲もうと思っていたのだが、誘惑には勝てなかった。夕飯の際、ついに1本の封を切ってしまった。それも1982年ものだ。美味かった。自宅だから勝手気ままにやった。色をで、香りを楽しみ、次におもむろに口に含む。直ちに飲み込まずに舌と歯茎に存分に味わわせる。それから喉から流れ落ちる刺激と感覚を確認する。最後に胃袋から鼻に抜ける香りに浸る。
2口、3口 ……… 。空になったグラスに赤い液体を注ぎ、改めて、その微妙な色に驚く。色は光の波長、赤・青・緑の光の三原色の組合せ。簡単な物理原則である。でも、ジッと眺めていると不思議になる。この色をコンピュータ上で出すのは至難のだろう。ディスプレイの構成要素───画素は、光の三原色を出す三つの要素からできている。それぞれの濃さ、階調は普通8ビット、つまり2の8乗、256通りある。従って、画素はその組合せ、256×256×256=1677万7216通りの色の違いを表現できるはずである。
これを「トゥルーカラー」(true color)と普通、呼んでいるが、こんなものでは再現できないだろう。この64倍、10億通りの色の違いを表現できるものもあるが、それでも無理だろう。いかに本物(true)らしい色を出すのが難しいか、プロの人たちから説明を受けたことを思い出した。その時のキーワードはカラーマネジメントだったけれど、そんなテクニックが通用する世界ではない。眺めていて、神秘的なものを感じる。
香りと味も申し分なかった。。だが、香りはやや淡泊。味は辛口で重厚だけど、押し付けがましくない。渋みもほど良い。普通の和食の味を損なわない。杯を重ねても最初の美味さ持続する。あっという間に空になる。
5感がすべて満たされた。残りの1990年ものも、今度こそ、何かの折に飲もうと大事にしていたが、眺めていたら飲んでくれと頼まれているようで、いつの間にか空けてしまった。1982年ものに負けず劣らず美味かった。年数の違いをあまり感じさせなかった。
MARCHESI DI BAROLO(マルケージ・ディ・バローロ)
飲んだらの「MARCHESI DI BAROLO」(マルケージ・ディ・バローロ)というラベルが気になった。ワイナリーの名前である。と言って、ワインの本などを買って調べるまでりではない。インターネットのアドレスが書かれていた(http://www.marchesibarolo.com)。
ものぐさの僕にはピッタリである。すぐにアクセスした。なかなか充実したホームページで、イタリア語と英語のホームページが用意され、同社の歴史から始まって、「バローロ」での葡萄栽培の状況、同社が運営するレストランやワイン図書館、そして商品などが説明されていた。相当な規模でやっている、しかも、実績もさることながら、商売上手なようである。
僕が飲んでしまったものと同じラベルのワインもあった。「Le Reserve」と分類される中にあった。葡萄の種類から始まって、その特徴などが説明されていた。上の写真の右端のものである。しかし、僕の英語力とワインに対する知識不足のためだろう、今ひとつ説明がピンとこない。もちろん、値段などは書かれていない。改めて、他の部分も読み直すと、同じような感じである。
「気が利いている」のだけれど、何かに欠けているように思えた。それで日本では、どのように紹介されているのか知りたくなった。いろいろ出てきた。
「マルケージ・ディ・バローロ社は日本ではまだあまりメジャーではないワインメーカーですが、世界的には非常に有名なワイナリーであり、明らかに今のイタリア・ワインのトップを走っているワイナリーのうちのひとつです。百年以上の歴史を持ち、もともとのピエモンテ州バローロ村の領主でもあったことからMarchesi di Barolo(バローロ村の公爵の意)の名前を冠しているのです。バローロメーカーとしてこれほどの歴史を持つワイナリーは他にどこもなく、長い歴史の中で培ってきた伝統と技術が今も最高のワインを作り出しています。一昨年はラスベガスで行われた世界中の赤ワインの評議会で「cannubi」というバローロで第2位を獲得するなど(かのロマネコンティはそのとき36位)今もその栄光はまったく色あせることなく続いています」───「Cool Girls Japan」というホームページのワイン特集の中に、こんな記事が載っていた。
(http://www.coolgirlsjapan.com/pickup/roero.html)
またJAL「イタリア料理とワインの旅・11日間」ツアーの案内には「ピエモンテで訪問するワイナリー:マルケージ・ディ・バローロ(Marchesi di Barolo) ── イタリア語でバローロ侯爵を意味します。18世紀バローロ城の城主の妻が始めたワイナリーでその名のとおり風格のあるワインが特徴。ワインセラーに並ぶ大樽にはバローロやバルバレスコの逸品が熟成を待っています」と紹介されていた。(http://www.jalcard.co.jp/members/travel/special)
これらを読み、日本でも評価されているのかと思うと同時に、説明での「公爵」と「侯爵」の違いが気になった。どちらが正しいのだろう。戦前の日本に存在した「貴族」、厳密に言えば「華族」の、いわゆる「五等爵」───「公爵」、「侯爵」、「伯爵」、「子爵」、「男爵」の序列に従えば、読み方、音は同じでも「公爵」と「伯爵」は、それぞれ1位と2位とで、多分、雲泥の差があったはずである。どちらかが間違っているのだろが、ホームページを作る世代の人たちは気にしないのだろう。ワープロで「こうしゃく」と入力すれば両方でてくる。そのどちらを選ぶかは、キーボードの打ち手の問題である。おそらく「貴族」であるとメッセージが伝わるだけで、送り手も受けても十分なのだろう。そう諦めて、他のホームページに移った。
ちなみに「華族」については、「日本大百科全書」(小学館)には、次のようなことが書かれている。こうしたことは若い人たちはほとんど知らないのだろう。
明治以降の特権的貴族層をいう。1869年(明治2年)の版籍奉還後、従来の公卿、諸侯の称を廃してすべて華族とし、新しい身分階層を設けた。このときの華族数は427家。廃藩により、すべて東京居住となり、家禄も政府から支給され、その子弟教育のために学習院が開校された。1988年(明治17年)に「華族令」が制定され、従来の華族に加えて、国家に勲功のあった政治家、軍人、官吏、実業家などが新たに華族に加えられた。爵位は、公、侯、伯、子、男の5段階。公家は旧来の家柄、旧諸侯は旧領石高を基準にランクづけられた。勲功華族は薩長など藩閥出身者が多く、しかも高位に叙爵された。
「華族令」の制定の背景には、国会開設を控えて、華族を貴族院議員とする構想があり、そのためにも勲功新華族の創立が必要とされた。明治憲法と貴族院令の制定により、公侯爵全員、および伯子男爵は互選で貴族院議員となると定められ、新たに政治的特権が付与された。そのほか華族の特権として、家督相続人の爵位の世襲制「華族世襲財産法」や華族銀行・第十五国立銀行の創立による華族財産の特別保護と管理が行われた。華族は「皇室の藩屏(かこい・垣根)」たるべき任にあるとされ、華族とその子弟の婚姻も宮内大臣の許可を要した。なお叙爵や昇爵は、勲功のあるごとに、とくに戦争ごとに行われた。1947年(昭和22)日本国憲法によって華族制度は廃止された。
ホームページには、まだまだいろいろあった。
フジテレビなどが開催した「イタリア祭りTUTTA ITALIA!!」(2001年4月28日~5月6日)のワインセミナーでテイスティングに出されたのが、Marchesi di Baroloの「バローロ」(Barolo Cannubi1997)で、すごく良かったという記事もあった。(http://www.italia.gr.jp/colonna/cx.html)
またeーショップ「ワイン・マーケット」のホームページには、元スチュワーデスのワインコーディネーター・柴田桂女史のコラム「美味しいワイン飲みましょう」があって、その中の「Happy NewCentury From NY!」では、次のように書かれていた。
バローロを飲む気満々の私達の気合いが伝わったのか、「バローロを飲むのだろう?」と(ソムリエが)語りかけてきました。
店に入った時から決めていたんだよ、等と勝手な事を言いながら、沢山の種類のバローロの中から今日頂く一本を決める為の相談が始まりました。イタリア語訛り全開で、話し出したら止まらない氏。
そこに私が、日本でワイン関係の仕事をしていると告げたものだから、彼のおしゃべりも増々白熱。延々と話し合った結果、本日はMarchesi di Barolo の「Barolo Sarmassa '95」をいただくことに決定!(そうです、あのひょろりとしたセイタカノッポボトルです!)
………………
さて、ちなみに本日のメインは「牛肉のブラザート、バローロ風味」。
ブラザートBrasatoという料理は、鍋に蓋をしてとろ火で何時間も煮込む肉の蒸し煮のことでピエモンテ州を代表する、とても有名なものの一つです。良く合うとされているワインのタイプは長期熟成タイプのしっかりとした赤。タンニンが多くスパイシーで厚みがあり、十分にアルコールを感じるワインが向いているとされています。しかも今回の場合は、料理に用いたワインがバローロでもあったので、ワインとの相性は抜群!で、非常に満足度の高い組み合わせでした。
ワインも、バローロらしさが十分にありながら個性的で、味わいも思いのほか滑らかで、とても調和の取れた素晴らしい一品でした。
(ソムリエの)ラパッチオーリ氏はほとんど私達のテーブルに付きっきりの状態で、おしゃべりをしながら「どうだ、美味しいだろう!」と言わんばかりにワインをどんどん注ぐので、麗しのバローロもあっという間に無くなってしまいました・・・。(http://www.partywine.com/communication/column2/sibata006.htm)
とても美味そうである。しかし、この「Barolo Sarmassa」も、先に出てきた「Barolo Cannubi」も、僕が飲んだものとは違う「Crus Storici」という分類のものである。だいたい「Marchesi di Barolo」のホームページにある分類がよく分からないものだから、調べて、逆にますます気掛かりになった。
ちなみに美味いとめられていたのは写真の左の3種類のワインである。
そして何が気掛かりかというと、日本で販売されているのか、販売されているとすれば、いくらぐらいなのかということである。
しかし、検索エンジンを使って、日本のホームページを丁寧に探してみたものの、日本では馴染みが薄いと書かれていた通り、なかなか欲しい情報は見つからない。
すっかり有名になったインターネットの「楽天市場」で売り出されていたが、今年の2月で止めており、今となっては分からない。「電脳ワイン&地酒 SHOP NOISY'S WINE SELECTS 原酒店」では、1990年の赤が3990円で売りに出されていたが、僕の飲んだものとラベルがまったく違う。(http://www.wine-selects.com/index.htm)「Marchesi di Barolo」のホームページには載っていないラベルである。
「ワイングロサリー」というサイトにも「バローロ エスターテ・ヴィニャード 1997」が1万1000円とあったけれど、これも僕の飲んだものとは違う。「Marchesi di Barolo」のホームページにもない。
(http://winegrocery.com/onlineshop/ita/pie/marchesi.htm)
さらに今年、名鉄百貨店のワイン5本福袋(1万円)の中に入っていたという記事もあった。(http://homepage1.nifty.com/yukikaze/wine/a301-fuk/wi-a301f.htm)
Cuvee Dom Perignon 1993 Moet et Chandon France Champagn
Riserva di Fizzano Chianti Classico 1998 Rocca della Macie Italia Toscana
Brunate Barolo 1996 Marchesi di Barolo Italia Piemonte
Barbaresco 1997 Giunti Italia Piemonte
Creja Barbaresco 1998 Marchesi di Barolo Italia Piemonte
ラベルは「Marchesi di Barolo」のホームページにも載っているものにそっくりだが、「Brunate Barolo」という名前は、見当たらない。写真で右から2本目のものである。ともかく、いろいろな銘柄があるらしく、混乱させられた。
やっと「Marchesi di Barolo」のホームページにもあり、話にも出てきた「Barolo Cannubi」の 1990年ものの値段を見つけた。ワイン専門誌「Winart 17号」の発売の協賛セールで1万円で売りに出されていた。在庫は3本という。ただし、昨年12月のことだ。また「とっておきのイタリア・ワインお買得速報」(2003年5月4日)では、同じものが8900円で売りに出されていた。
(http://www.melma.com/mag/21/m00015721/a00000034.html)
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これ以上の情報はなかった。いろいろ調べてみたものの、僕の欲しい情報、僕の飲んだワインはどのくらいするものかはついに分からなかった。欲求不満になった。そして急に疲れを覚えた。パソコンを相手に2時間ぐらい格闘していた。