ぼちぼちいこか 「大人の科学」 PDF
 

伴 勇貴(2010年03月)

 

子供の頃は、「子供の科学」「初歩のラジオ」「模型とラジオ」などの月刊誌が発売されるのを心待ちにしていた。小学校の頃は「子供の科学」、中学校の頃は「初歩のラジオ」と「模型とラジオ」だった。「初歩のラジオ」「模型とラジオ」はすでに廃刊になっているけれど、「子供の科学」は、誠文堂(誠文堂新光社)から、今でも出版されている。

このたぐいのもので、僕が40歳の頃、今から20年以上前のこと、書店で見付けて感動し、発行されるたびに購入し、こつこつと揃えたのは、同朋舎出版の「ビジュアル博物館」というシリーズである。

これは面白かった。オリジナルは英国のドーリング・キンダストリー社で、その翻訳版であるが、翻訳を意識させない出来映えであった。「ビジュアル」という言葉の通り、ともかく写真と図版を豊富に使って歴史から自然科学まで理解させようと趣旨で制作されたものである。

その意図は十分に果たせたと思う。僕はときどきアットランダムに抜き出しては、飽きずに読むというか眺めていた。

生きているということ、そして人の縁とは不思議なもので、僕が「ビジュアル博物館」を買い求め、楽しむようになって数年後、その出版元の同朋舎出版の今田達社長と、知り会い、以降、ずっと懇意にさせてもらっている。そして嬉しいことに、その間に、まだ全部は購入していなかった「ビジュアル博物館」のシリーズをごっそりいただいてしまった。今田達さんは、現在、同朋舎メディアプラン会長である。数十冊にもなる全シリーズはすでに僕から息子の手に移ってしまっている。数年も経つと孫が手にし始めるかもしれない。

 こうした僕のような者を刺激するタイトル「大人の科学」という名前で、綴じ込みの模型キット付きの季刊誌が2003年、僕が58歳になった時に、誠文堂ではなく学研から発刊された。

本屋に1冊の厚さが5センチ近くもある本がうずたかく積まれているのを見て、思わず手にとって眺め、それが学研の出版であることを知って驚いたことが記憶に新しい。当初は年3冊のペースだったが、最近は年4冊ペースで出版され、すでに次の26冊が発行されている。

ポンポン船ジェットボート(2003年4月)
 探偵スパイセット(2003年7月)
 ピンホールカメラ現像セット(2003年12月)
 鉱石・ダイオード付きラジオセット(2004年4月)
 ロバート・フック式顕微鏡+プランクトン飼育セット(2004年7月)
 レコード盤録再蓄音機(2004年11月)
 蒸気エンジン自動車(2005年3月)
 棒テンプ式機械時計(2005年6月)
 究極のピンホール式プラネタリウム(2005年9月)
 スターリングエンジン(2005年12月)
 ニュートンの反射望遠鏡(2006年3月)
 レオナルド・ダ・ヴィンチのヘリコプター(2006年6月)
 投影式万華鏡(2006年9月)
 ステレオピンホールカメラ(2006年12月)
 紙フィルム映写機(2007年3月)
 ミニ茶運び人形(2007年7月)
 世界最古の電子楽器 テルミン(2007年9月)
 風力発電キット(2007年12月)
 ガリレオの望遠鏡(2008年3月)
 手回し鳥オルガン(2008年6月)
 電磁石エンジン(2008年9月)
 平賀源内のエレキテル(2008年12月)
 ポールセンの針金録音機(2009年3月)
 4ビット・マイコン(2009年6月)
 35mm二眼レフカメラ(2009年10月)
 アンプ+スピーカー内蔵 ミニエレキ(2009年12月)

 

各号のテーマそのものは、かつて「子供の科学」に登場したようなもので、それが僕に一層の郷愁を呼び起こす。しかも綴じ込みの模型キットは厚さ五センチあまりの立派な箱に納められており、普通の「付録」や「おまけ」とは違う、「大人の科学」である、「子供の科学」とはひと味違う、と自慢げに主張しているように見える。

しかし、「お遊び」に過ぎないことは値段を見れば明白である。作り上げるまでが楽しみで、作り上げてしまったらゴミになる運命であることも分かっている。それでも、本屋で手にすると、無性にじ込みの厚さ5センチあまりの模型キットの箱の中身を見たくなってしまう。「ようし、作るぞ!」と思ってしまう。

かつては、その衝動に突き動かされ、小遣いをはたいて買ってしまったものだった。

そんな子供時代の学習効果から、今は直ちに買い求めることはない。一回目の出会いで買うようなことはない。ともかく、まずは買わないで本屋を出る。少なくとも数日間は迷うようになっている。

それでもついつい「大人の科学」を買ってしまった。

発刊以来、計3冊も買った。

8号「棒テンプ式機械時計」(2005年6月)
 10号「スターリングエンジン」(2005年12月)
 13号「投影式万華鏡」(2006年9月)

しかし、買っても模型キットの箱を開けないでいた。中を見て、やっぱり「お遊び」に過ぎずゴミになるのが確実だとガッカリするのが怖くて、ただ箱を眺め、いつか開けて作ろうと思うだけで満足していた。

ところが気が付いたら最後に買った「投影式万華鏡」の箱が開けられ、組み立てられていた。買ってから間もない2006年10月のことである。

麻布に住んでいた頃、2万円もの大枚をはたいて「万華鏡」を買った。1995年頃のことだ。

これを契機に、著名な作者の多いアメリカでも専門店を見つけては品定めを行い、そして日本よりも3~4割ぐらい安いことに興奮し、「万華鏡」を何点も購入したので、一定の鑑識眼は持っていると自負している。

その眼で眺めると、組み上がっていた「投影式万華鏡」はまるで縁日の景品のようなものだった。それをきっかけに全部開いて、サカサカと作ってしまった。

数日眺めていたけれど、鬱陶しいので捨ててしまった。

それから3年以上経った。相変わらず「大人の科学」を書店で目にする。最新のものは昨年末の「アンプ+スピーカー内蔵 ミニエレキ」だ。

本屋で「大人の科学」うずたかく積まれていると、まだ思わず本屋で手にとってしまうが、眺めるだけで我慢するようになっている。

(2010年 初春)