第24講 (追補)知的財産経営について

細川 学

1. 知的財産経営に関する一考察  
                                        ーバランスシート経営ー  (2004/6/17) 
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奇妙なことに日本では「知的財産バブル」がまだ続いている。政府は知的財産戦略大綱等において、「知的創造サイクル」により知的財産を豊富に創造し、経済や文化の持続的な発展をもたらす、と説明している。そして企業の知的財産部門は知的財産の「管理」に狂奔している。
「管理」とは、辞書を引くと「管轄・運営し、また処理や保守をすること。取り仕切ったり、よい状態を維持したりすること」と説明されており、「業務を管理する」といった使い方もされるが、どちらかというと「ビルを管理する」といったように形のあるモノを対象にする概念である。
 ところが「知的財産は無形資産である」というのが一般的であり、そうなると、形あるモノを対象とする「管理」という概念を知的財産に適応すると間違いを犯しやすい。それよりも知的財産は「経営」の対象とするべきものだと思う。「経営」とは、辞書を引くと「方針を定め、組織を整えて、目的を達成するよう持続的に事を行うこと」と説明されているが、株式会社について言えば、要するに「力を尽くして株主<従業員及び社会>の付託に応える」ことである。
 この「経営」の対象に知的財産をする、つまり「知的財産経営」を行い、知的財産の資産価値を厳しく評価すれば、「知的財産バブル」は消滅するだろう。
 「知的財産経営」は国際会計基準と同様に透明性のある手法でなければならない。資産価値から取得・管理費用等の諸経費を差し引いて損益を算定する。残存価値も算定する。バランスシートを使用し、所有する知的財産の資産価値を勘定科目の資産の部に計上し、その取得諸経費(発明・創作費、出願費、審査請求費、権利維持費、紛争費等)を負債の部に計上する。「評価損益=借方-貸方」が大幅に赤字の場合は知的財産バブルであるとの認識を持たなければならない。知的財産をバランスシートに載せると、いわゆる防衛特許や防衛商標などの「惰眠権利」や審査請求を断念した発明などの資産価値は限りなくゼロとなり、不良債権として処理されなければならなくなるだろう。
 このようにバランスシートを道具として使用して知的財産を経営するために「知的財産経営学」というような学問があっても良いのではないだろうか。他に提唱者する人は見当たらないのだが、こうした「知的財産経営学」が確立され、普及すれば、従来、伏魔殿のようであった知的財産の損益は透明になり、それを利益体質に変えることが可能になるだろうし、「知的財産バブル」も解消するものと期待される。

  1. はじめに 
  2. 日本の知的財産活動の実態
  3. 平成16年改正特許法対応
  4. 知的財産経営学の概要

2. 知的財産権の力に関する研究  (2004/6/24) PDF

  1. はじめに
  2. 知的財産の力
  3. 知的財産権の真の力
  4. 特許権の収益力、攻撃力及び防護力の関係
  5. わが国工作機械産業

知的財産権の経営的価値はその権利がもたらす知的財産権の真の力、即ち収益力、攻撃力及び防護力により創出される。知的財産権の収益力は会社に富をもたらし、株主の負託に応え、末永い繁栄を約束する。その富は従業員の生活を豊かにすると共に、技術や文化の進歩は社会の発展に貢献する。収益力を高めるためには経営的価値のある知的財産権が存在しなければならない。
 従来は、知的財産を豊富に創造し、それを権利化し、商品化し、収益を得て再投資するとする「知的創造サイクル」という考え方が主流であった。この考え方は革命型経営には通用しないことは理解できるが、工作機械産業のような秘匿性知的財産権を重視する産業にも適用できないようである。 
  知的財産権には特許発明に代表される技術的知的財産権と、ブランドや経営戦略のような戦略的知的財産権と、ソフトウエア、営業秘密、物作りの智慧等の秘匿性知的財産権がある。技術的知的財産権の法律上の力は権利の設定登録により発生し、権利の消滅により「0」となる。その真の力は発明の先進性の関数である。戦略的知的財産権及び秘匿性知的財産権の力は法的に保証される力ではなく、活用する者の智慧の力である。
 知的財産権には先行して市場を完全支配する基本権利型と、多数の知的財産権を統合する知的財産権集団型がある。追従型研究開発を得意とするわが国の知的財産権の実態は後者であろう。
 知的財産権集団は個々の権利の力が弱くても集団の状態では収益力、攻撃力及び防護力を保持し、競業者の市場参入を逡巡させる力も発揮する。その力は法律上の排他的独占権に依拠しているというよりむしろ経営の力量そのものであろう。
 よって本研究は、知的財産権集団の力を運動方程式により解明することを試する。

 


3. 特許権経営の光と影と守護神 (2013.1.27) PDF

  1. 千手観音と発明王
  2. 佐吉翁の特許権を武器とした経営」(「特許権経営」)
  3. 佐吉翁の特許
  4. 「全トヨタ特許同盟」の結成
  5. 特許庁の支援と指導
  6. 「特許同盟」の成果
  7. あとがき:守護神について
    付表1 「佐吉翁」の特許40件のリスト
    付表2 「豊田織機」40年史掲載の自動織機に関するリスト28件

延暦寺の千手観音像を拝観し、発明王豊田佐吉(「佐吉翁」)を連想した。観音様の40本の御手珠に佐吉翁の約70件の特許発明を連想し、御頭仏に「佐吉翁」の特許権経営に助力した政府、特許庁、法曹界、業界等の賢者を連想した。そしては観音様の「はにかみ」の表情に、発明事業の成功や叙勲の喜びと、思わぬ特許紛争で味わった苦渋の思いを連想した。
  人間社会には光り輝く「栄光の歴史」と、思わぬ難題に苦労した「苦渋の歴史」もあるが、その歴史を支えた熟練、熟達の賢者(「守護神」)の存在も忘れることはできないであろう。
  特許権を武器とした企業経営(「特許権経営」)にも華々しい「栄光の歴史」の陰に、誰も知らない「苦渋の歴史」や、栄光を支えた多くの「守護神」の存在もあった。

中村修二氏 V 日亜化学工業(日亜)の職務発明訴訟における東京地方裁判所の判決 (東京地裁平13(ワ)17772 号)は、「日亜は中村氏に200億円を支払え」と命ずるもので あった。 あまりにも非常識な判決であるので言及したいところであるが、その論評は識者に任 せるとして、本項では職務発明の対価対象部分の力について考察する。 昭和34年特許法の当初における企業当事者の職務発明の考え方は、従業員に対する発 明奨励とその褒賞であり、技術者に対する福利政策の一環と考えていた。職務発明に関 する最近の一連の判決では、特許法35条は強行規定であり、従業者等と使用者等の関係 は権利⇔義務の関係であるとしている。
職務発明について職務発明者が権利を主張し、使用者等がその義務を履行するために は、職務発明の対価対象部分に如何なる力が存在し、その力による請求権と、その力か ら算定されるリーズナブルな対価の額の算定方法を解明しなければならない。 本研究は特許発明に限定し、その難解な課題に挑戦を試みる。

 

4. なんとも厳しい判決3題
        日亜事件・ミノルタ事件・ロットレスシリンダー事件 (2005/6/21) PDF

  1. 平成14年8月に経済産業省が発表したわが国メーカーのブランド価値のベストテン
  2. インターランド社(英)によるブランド価値の推移
  3. インターランド社(英)のブランド・ランキングの推移
  4. 米国の産業競争力は強いブランドを背景にしている。
  5. わが国のブランドと利益の関係
  6. ブランドをめぐる紛争
  7. 知的財産関係の紛争発生件数
  8. 2000年の判例時報に掲載された知的財産関係の重要な紛争
  9. 周知商標に関する最近の重要判例

各国の競争力ランキング
(1997年に競争力に無形資産を加えたことによりわが国の競争力は急落した)