第26講 (追補)知的財産権あれこれ

細川 学

1. 均衡論に関する新たなアプローチ (2006/2/19) PDF

井要太郎弁護士は判例時報1907号(平成17年12月11号)に、「クレーム解釈における契約説と法規範説―均等論および禁反言との関連においてー」という題名の論文を発表された。氏は、クレーム解釈には「契約説」(アメリカ合衆国、米国)と「法規範説」(ドイツ、独)があり、両国(米、独)の実務(均等と法規範)を並存して採用した「無限摺動用ボールスプライン軸受」事件最高裁判決(最三判決、平10.2.24、判例時報1630号参照)は、法理論的観点から再検討の必要に迫られる、とする新たなアプローチを発表された。以下その所論を研究する。

本均等論は多くの各位からのレポートや助言に触発させて長年書き溜めた著作の集約である。特に豊田工機㈱(現㈱ジェイテクト)の知的財産部門からワシントンの法律事務所や「GW大」に研修留学した故浅原俊紀氏以下十数人の各位からの研修レポート、とりわけ町田一夫氏等のGeorge Washington大学研修レポートが教典となった。均等論に関する論文は「特許管理」等の諸誌にも多数掲載されているが、私は「産業政策」から見る均等論を思考したいと考え、日本工作機械工業会事務局の八賀聡一氏や丑久保雅之氏等の助力を得て、ドイツを始めとする海外の業界関連の均等論に関する貴重なレポートも入手した。故服部敏夫先生、故斎田信明先生を始めとする工作機械関連の特許庁、学界、法曹界の諸先生方には長年懇切なるご指導を頂いた。鈴木福一氏を始めとするトヨタグループや、佐藤完治氏を始めとする「日工会」の知的財産権関連の各位とは長年相互研鑚を頂いた。故冨田環豊田工機㈱元会長には特許経営学を、盟友であった故和田竜児博士には工作機械発明工学について至玉の指導を受けた。懇切なるご指導を頂いた各位のご芳名の列記は割愛するが、深甚なる謝意を表し、結びの辞とする。

  1. はじめに
  2. 契約説と法規範説
  3. 契約説における均等論
  4. 米国における均等論の推移
  5. 法規範説における均等論
  6. まとめ

2. 産業政策としての均等論を考える (2011/8/22)  PDF

2010年のノーベル化学賞に日本人研究者鈴木章北海道大学名誉教授 と根岸栄一パデュー大学特別教授 が受賞し、日本中が喜びで沸き立った。 しかも、その大発明について二人ともが「特許は一切取っていない」と権利を開放したとの報道に更に感動し、改めて産業政策の視点から「均等論」について考えた。
「均等論」とは特許権利者と消費者を含む利害関係者の利益の調和を図る特許権に関する法理論「特許法理」であり、特許請求の範囲「クレーム」(claim)を広く解釈する「プロパテント論」(Pro Patent)と、「クレーム」を素直に解釈(文言解釈)して狭く解釈する「アンチパテント論」(Anti Patent)がある。
「プロパテント論」は巨大産業に軸足のある均等論であり、「アンチパテント論」は一般市民や中小産業にも配慮する均等論であると言える。
そしてアメリカは「法ルール論」として、ドイツは「法技術論」として、時代の変化に柔軟に対応している。日本は律儀な「法規範論」に従っている。 

本均等論は多くの各位からのレポートや助言に触発させて長年書き溜めた著作の集約である。特に豊田工機㈱(現㈱ジェイテクト)の知的財産部門からワシントンの法律事務所や「GW大」に研修留学した故浅原俊紀氏以下十数人の各位からの研修レポート、とりわけ町田一夫氏等のGeorge Washington大学研修レポートが教典となった。均等論に関する論文は「特許管理」等の諸誌にも多数掲載されているが、私は「産業政策」から見る均等論を思考したいと考え、日本工作機械工業会事務局の八賀聡一氏や丑久保雅之氏等の助力を得て、ドイツを始めとする海外の業界関連の均等論に関する貴重なレポートも入手した。故服部敏夫先生、故斎田信明先生を始めとする工作機械関連の特許庁、学界、法曹界の諸先生方には長年懇切なるご指導を頂いた。鈴木福一氏を始めとするトヨタグループや、佐藤完治氏を始めとする「日工会」の知的財産権関連の各位とは長年相互研鑚を頂いた。故冨田環豊田工機㈱元会長には特許経営学を、盟友であった故和田竜児博士には工作機械発明工学について至玉の指導を受けた。懇切なるご指導を頂いた各位のご芳名の列記は割愛するが、深甚なる謝意を表し、結びの辞とする。

  1. ノーベル賞と特許法理
  2. 「日」「米」「独」の均等論の比較
  3. 日本とアメリカの産業政策としての均等論の推移
  4. 日本の均等論
  5. 日本の特許事業会計
  6. 検証
  7. あとがき

3. 瞑想「特許請求の範囲」(2007/12/5)  PDF

私は引退後、判例時報の知的財産関係などの書物を眺めて遊んでいる。特許紛争は「特許請求の範囲」の解釈を争うケースが多い。紛争を眺めていると、簡略で分かり易く、法規範(範囲)が明確な「特許請求の範囲」に美学を感じる。
しかし、近頃の「特許請求の範囲」は重厚長大なものが多い。現行特許法第36条第5項は、「特許請求の範囲」を「発明を特定するために必要と認められる全てを記載しなけばならない」と定め、「請求項ごとの記載は簡潔」と定めている。昭和35年施行当初の条文は「発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない」であった。要記主義から全記主義に変わったといえる。
 改正法は特許権取得の戦術に使われるようになった。特許権を取得するために、冗長とも言えるような丁寧な「特許請求の範囲」が目立つようになった。例えば豊田佐吉翁の織機の第一号特許(特許第1195号、明治24年)の「特許請求の範囲」は約200文字であった。一方リサイクル品が争点になったキャノンの小さなインクカートリッジに関する特許第327841号の請求項は15、特許請求の範囲全体の文字数は約7000で、且つ重複文言が多い。図面は15、特許公報は15頁である。重厚長大で難解な全記主義のクレーム(請求)である。
 佐吉翁の40件の特許公報を見ると、簡潔な明治の役所文による詳細な説明、美しい図面、法規判が明快な「特許請求の範囲」であり、特許の美学を感じる。
 下図は豊田佐吉翁の第一号特許の添付図で、出願から6ヶ月で設定登録された。佐吉翁の特許は40件で、明治時代の特許は27件、その平均設定登録日数は102日、最短は20日であった。驚愕の短期審査である。特許庁が凄かったことは確かだが、分かり易く見やすいことの効果も絶大だったのではないだろうか。

  1. 「特許請求の範囲」の美学
  2. 特許と私
  3. 世間の美学  
  4. 特許の格式
  5. 豊田佐吉翁の特許と私
  6. (社)日本工作機械工業会の特許調査活動
  7. わが国の発明ー特許率と出願ー特許率
  8. コンピュータリサーチとその問題点
  9. (社)日本工作機械工業会の特許紛争の歴史
  10. 基本特許の権利者の自滅
  11. 特許庁の審査
  12. 工作機械の審査
  13. 特許庁と(社)日本工作機械工業会
  14. (社)日本工作機械工業会の経営データ
  15. 社長と「特許請求の範囲」
  16. 発明者と銀山鉱夫
  17. 特許と安全保障輸出管理

4. 米国を旅して工作機械を思う(2008/10/31) PDF

トヨタの北米における工場や事業所の所在地を下図に示す。アメリカ本土に21、カナダに6、メキシコに2、合計29の事業拠点があり、その就業者数は7万人をこえるとの報告もある。連結子会社や関連の仕入先会社を加えると日系企業の総事業拠点も就業者数も倍増するであろう。
トヨタの北米における工場や事業所の所在地を下図に示す。アメリカ本土に21、カナダに6、メキシコに2、合計29の事業拠点があり、その就業者数は7万人をこえるとの報告もある。連結子会社や関連の仕入先会社を加えると日系企業の総事業拠点も就業者数も倍増するであろう。
アメリカの進化した高速道路網を企業集団のネットとして最大限に活用する経営戦略は長い労苦の集大成であり、このネットを利用してトヨタは進化を続けるだろうと思えた。

  1. 旅の発起
  2. ケンタッキー州のこと
  3. ケンタッキー州の物価と味 
  4. アメリカでの工作機械生産
  5. トヨタ自動車の北米事業
  6. ハワイに遊ぶ
  7. 自動車産業のシェアーリング
    • (1)高速道路と自動車蚕業
    • (2)二つの図書
    • (3)新車開発と工作機械
    • (4)元町工場と上郷工場
    • (5)日本の工作機械産業の自動車業界からの受注
    • (6)日米独三カ国の工作機械の生産
    • ​(7)わが国工作機械の生産台数
  8. まとめ

3. 瞑想「特許請求の範囲」(2007/12/5)  PDF

私は引退後、判例時報の知的財産関係などの書物を眺めて遊んでいる。特許紛争は「特許請求の範囲」の解釈を争うケースが多い。紛争を眺めていると、簡略で分かり易く、法規範(範囲)が明確な「特許請求の範囲」に美学を感じる。
しかし、近頃の「特許請求の範囲」は重厚長大なものが多い。現行特許法第36条第5項は、「特許請求の範囲」を「発明を特定するために必要と認められる全てを記載しなけばならない」と定め、「請求項ごとの記載は簡潔」と定めている。昭和35年施行当初の条文は「発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない」であった。要記主義から全記主義に変わったといえる。
 改正法は特許権取得の戦術に使われるようになった。特許権を取得するために、冗長とも言えるような丁寧な「特許請求の範囲」が目立つようになった。例えば豊田佐吉翁の織機の第一号特許(特許第1195号、明治24年)の「特許請求の範囲」は約200文字であった。一方リサイクル品が争点になったキャノンの小さなインクカートリッジに関する特許第327841号の請求項は15、特許請求の範囲全体の文字数は約7000で、且つ重複文言が多い。図面は15、特許公報は15頁である。重厚長大で難解な全記主義のクレーム(請求)である。
 佐吉翁の40件の特許公報を見ると、簡潔な明治の役所文による詳細な説明、美しい図面、法規判が明快な「特許請求の範囲」であり、特許の美学を感じる。
 下図は豊田佐吉翁の第一号特許の添付図で、出願から6ヶ月で設定登録された。佐吉翁の特許は40件で、明治時代の特許は27件、その平均設定登録日数は102日、最短は20日であった。驚愕の短期審査である。特許庁が凄かったことは確かだが、分かり易く見やすいことの効果も絶大だったのではないだろうか。

  1. 「特許請求の範囲」の美学
  2. 特許と私
  3. 世間の美学  
  4. 特許の格式
  5. 豊田佐吉翁の特許と私
  6. (社)日本工作機械工業会の特許調査活動
  7. わが国の発明ー特許率と出願ー特許率
  8. コンピュータリサーチとその問題点
  9. (社)日本工作機械工業会の特許紛争の歴史
  10. 基本特許の権利者の自滅
  11. 特許庁の審査
  12. 工作機械の審査
  13. 特許庁と(社)日本工作機械工業会
  14. (社)日本工作機械工業会の経営データ
  15. 社長と「特許請求の範囲」
  16. 発明者と銀山鉱夫
  17. 特許と安全保障輸出管理