時空の漂白 1  PDF (2004年9月17日)

創刊の決意                  前田勲男  

「大きいファイルを送られてくると往生おうじょうする」「出先の海外で受信すると止まってしまう」「画面では読めないので紙に打ち出すが、分量がすごい」こんなたぐいの苦情をしばしばもらうようになっている。

来年、還暦。小便の切れが悪くなったといったことは表面的な現象に過ぎない。脳細胞の硬化・萎縮いしゅくだろう、「時・場所・場合」(TPO)をわきまえない性癖せいへきが野蛮に露出するようになっている。

こうなると「老人力が付いたなぁ」とうそぶいているだけではすまない。あしが弱らないようにと、気が向いたら机脇に置かれているステッパー上でヒョコヒョコやっているだけでは駄目だと改めて思い知らされた。

怠惰に流されがちな今の自分に対して。新たに継続的な「たが」をはめることを決意した。戦略経営研究所として従来の「情報メモ」、「レポート」、「休憩室」(閑談)などの情報とは別に、原則、隔週報の「時空の漂泊」を発行することにした。

話題は、その時々の気分で決めるので定めないが、様式などは次のように規定する。①冗長じょうちょうにならないように縦書き三段組みのA4で3枚以内とする。②文字は12ポ、漢字にはなるべくルビを付ける(僕はルビ復活賛同者である)。③必ず図表や写真を1枚以上入れる。④PDF形式でファイルサイズを軽くして配信する。

期間は5年間、100号まで発行すること目標とする。

普通の社会生活を過ごせるのは数年間と宣告された手術だったにもかかわらず、執刀医があきれるぐらい、僕はしぶとく20年間も生きている。そして先輩、同僚、後輩の訃報ふほうを手にするたびに、欲張ってはいけないと自分自身をいましめている。だから、この目標が達成できれば僕には万々ばんばんざいである。

しかも白状すると、この目標達成も自分1人のちからでは無理で、多くの人の助けを得ようと思っている。

まだ了解は得ていないが、戦略経営研究所の協力者になって頂いている和田龍児・摂南大学教授、吉田よし太郎・千葉大学名誉教授、金出武雄・カーネーギーメロン大学教授、河野通方みちかた・東京大学教授、許斐このみ義信・慶応大学教授、富沢木実・道都大学教授の諸先生をはじめ、高成田とおる・朝日新聞論説委員、井口雅文(弁理士)・S&I(バンコック)社長、多田幸雄・サンロック(ワシントン)社長、さらには友人の作家・杉田のぞむ氏や山田厚史・アエラ編集委員などの諸氏にも友情出演をお願いするつもりである。

ところでタイトルの「時空」については、「大辞林」には、(1)時間と空間。「時空を超えた真理」、(2) 通常の三次元空間と、その三方向に独立な一方向として時間をとった四次元空間。時空の一点は空間的位置と時刻により指定される―――とある。そして「漂泊ひょうはく」とは、(1)一定の住居や生業なしにあてもなくさまよい歩くこと。さすらい。「漂泊の旅」「日本中を漂泊して歩く」、(2)流れただようこと。船が投錨とうびょうせず、機関を停止してただようこと―――とある。

これらの説明から「時空の漂泊」に、どのようなイメージや期待を描くかは自由である。ただ、各号で、独断偏見、唯我独尊を含め、なにがしかを感じ取って頂ければ幸いである。

この発行を決断したのはシカゴの老舗しにせのジャズ・クラブ、「ショーケース」で、満州生まれニューヨーク在住のジャズピアニスト、秋吉敏子(1929〜 )の演奏に酔い痴れていた時だ。料金は10ドル。客は30人もいない。音がやけにストレートに迫る。

その中でフロリダの知人は超大型ハリケーンの発生と退避勧告で二週間も自宅に帰れないでいると嘆く。それが最後の引き金に」なった。「ショーケース」で僕は音の洪水に襲われ、押し流されて発行を決めた。