時空の漂白 37  PDF (2010年12月6日) 

現代版 幸福考「自分と向き合う」 原 恭三   

最近、家電量販店の店頭に行くと毎週のように新製品が並んでいる。一方、テレビでは新人のお笑い芸人が毎週のように登場する。ビジネスも社会も、その動きや変化のスピードが速くて、毎日が運動会のような錯覚を覚えてしまう。

速ければ速いほど良いのだろうか? 「ぎたるは猶及なおおよばざるがごとし」-----物事の程度を超えたゆきすぎは不足していることと同じようによくない。(大辞林)-----という言葉がある。それもなんと紀元前770〜紀元前403年。二千数百年前の中国の春秋時代しゅんじゅうじだいの思想家・孔子とのその弟子たち言行録の「論語」に書かれているのである。

 

 

速すぎるのではないだろうか?
間違っているのではないだろうか?

そんな疑問が頭をよぎっても今の市場重視主義の下ではビジネスもこれに対応せざるを得ず、最後は体力勝負ということになりそうである。このままで過ごしていると、死ぬ間際になって、いろいろ後悔するという人生になってしまいそうである。

90代後半にアメリカで発売され、40週間以上、ベストセラーの座に輝いた「Tuesdays with Morrie」(モリー先生との火曜日 講談社)という本がある。恩師のモリー先生が難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)に侵され亡くなるまで、かつての教え子・主人公のミッチが毎週火曜日先生の自宅を訪問し、人生や社会の様々な問題を語り合った記録。モリー先生がミッチに贈った「最後の授業」の記録である。

2000年にニューヨークタイムズ紙のノンフィクション・ベストセラーズとなった。アメリカでは2002年に文庫本化、2006年に再文庫本化され、これまでに世界で1100万部が販売されている。

また1999年にテレビ映画化されてABC放送で放送され、2000年度の米国テレビ芸術科学アカデミーのプライムタイム・エミー賞の主要部門で受賞もしている。それはDVD化され、販売されている。

モリー先生が「いかに死ぬかを学べば、いかに生きるかも学べる」と述べたように、自らの行き方を考える上で、すべての人にお勧めしたい不朽の名作である。この本の中の第三章の火曜日……後悔についての章で、モリー先生は教え子のミッチに次のように説いている。

「今のような文化状況じゃ、死ぬ間際にならないとこういったことまで気が回らないね。みんな自分本位のことでがんじがらめだから。仕事のこと、家族のこと、カネは足りるか、借金は払えるか、新車を買うとか、暖房が故障したら直すとか…………暮らし続けるために数えきれないことに係わっていかなきゃならない。ただ、これではちょっと立ち止まって反省する習慣がつかないよ。これだけなのか? 自分がやりたいことはこれだけか? 何か抜けているんじゃないか?と時には考えないと」。(中略)

「君も、その方向に進めてくれる人が誰か必要だろう。ひとりでにそうはならない」。

アマゾンのカスタマーレビューには、『偶然手にした本ですが、本当に素晴らしい。仕事や人間関係などうまくいかないときや落ち込んだときなどに読むとほっとします。それから日々の悩みなどどうでもいいことのように感じます。世界中の人に読んでもらいたいと思います。あまりにも感動して思わず洋書も買ってしまいました。』と書かれていた。

スピードの速い競争社会では、攻めることも重要だが、闇雲やみくもに何もないところに向けて鉄砲の弾を撃っても意味はない。ややもすると、昨今は「スピード経営」、「リアルタイム経営」などの言葉に象徴される雰囲気に飲み込まれているように見える。ただ速ければ良いというのはない。物事には賢いスピード、速さがあるように思う。それを悟るためには良く考え、常に反省する心を忘れないことが大切だと思う。

この反省する心はどうしたら育むことができるだろうか?

まずは、相談相手だろう。英語では、これをメンター(忠実で賢明な良き指導者、信頼できる助言者)というが、職場の先輩、クラブの仲間、学生時代の友人、恩師などである。人生の相談相手を持つことが出来れば、自分自身を見つけることがより容易になるだろう。

次に自分自身は複数の組織に属するように努めることだろう。仕事をきちんと行いながら、それ以外にも社会のきちんとしたプロジェクトに参加するとか、「社会人大学院」に通う、週末にボランティア活動に参加し異なる体験を重ねるなど、いろいろあるだろう。視野が広がり、自分自身を問う機会が出来るだろう。

文部科学省調査(2008年)によれば、現在、大学院(修士・博士・専門職課程)に在学する約10万3000人の学生のうち、社会人が約1万7600人 で、社会人学生数が全学生数の2割近くを占めている。しかも通信制大学院やインターネト大学院の普及で、この門戸はさらに広がっている。

最後に、素直で謙虚さを忘れないことである。学習塾で長く働く友人は、素直な子供は必ず伸びると確信をもって言う。素直にコツコツと学ぶ姿勢と継続が大切だと言う

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残り数年の余生を如何にエンジョイできるか? これが定年後の最大の関心事であったような時代があったが、平均寿命の大幅な伸びで、今やどうやって定年退職後20年あまりを過ごすかが、多くの人にとって切実な問題になってきている。

肉体は35歳前後でピークを迎えるが、精神はきちんと磨いていれば、何歳になっても生きる限り発展と向上を続ける、決して「老化」しないと言われている。その基本にあるのは、先に触れた「反省」することを忘れない、怠らないということだと思う。そうすれば、長い人生航海を悔いなく終えることが出来るのではないだろうか…………。