時空の漂白 53  PDF (2011年3月1日)    

現代版 幸福考(5) 原 恭三 

「あなたの人生時計は、 今、何時?」 

 

今日の日本の平均寿命は、織田信長が「人間じんかん50年」と詠んだ時代に比べると、男性は79.59歳、女性は86.44歳(2010年)と、世界でもトップクラスとなった。

日本人の平均寿命が50歳を超えたのは戦後になってからで、それが今では、事故や疾病がなければ80歳まで生きられるようになった。アフリカ南部のジンバブエ共和国の平均寿命は、男性が48歳、女性が42歳であることを考えると、長寿をもたらした日本社会に感謝しなければならない。

では、我々の人生を時計に置き換えると、今、何時になるのであろうか? 健康であれば80歳まで生きるとすると、睡眠の8時間を差し引いた16時間で80歳を割れば、時間当たり5歳となる。6時にオギャーと命を授かると、朝10時は意気盛んな20歳の学生、昼食時の12時は働き盛りの30歳となる。

そして18時の夕食時は、定年を迎える60歳、夜20時の看板テレビ番組が並ぶプライムタイムは70歳、夜22時の就寝時は、80歳の人生を閉じる時間となる。

もっとも人生の時間の針をどのように考えるかは、人それぞれなのではあるのだが…………。  先日、大阪で内科医をしている知人が上京し、久し振りに一緒に夕食を取った。その時、最近、鬱うつ病の前兆である不安神経症患者が急増しているという話を聞いた。そして必ずといってよいほど、神経科でなく自分の内科を訪ねてくるとのことだった。

ひと昔前は、定年後の生活は、残された数年の余生をいかにエンジョイして暮らすかというものであった。 しかし、平均寿命が大幅に延び、その余生が数年から20年あまりにもなってしまい、その結果、その長い老後をいかに過ごしたら良いのかという不安から不安神経症患者が増加しているということだった。

健康には「肉体的なもの」と「精神的なもの」とがある。肉体は34〜35歳がピークの限界であるが、精神は常時磨いている限り、いくつになっても生きている限り、発展・向上を続け老化しないと言われる。

そこで、今回は、恥ずかしながら私の好きな詩、日本では「青春」という題で訳されているが、ここで自訳を紹介し、皆様と一緒に輝くべき将来の人生時計を考えたい。

この詩は米国の実業家サミュエル・ウルマンのもので、日本ではマッカーサー元帥の座右の銘として知られるようになった。

若さ(Youth)

若さとは人生の一時期(肉体)ではありません。

それは、あなたの今の心であり、意志であり、創造であり、感動であり、臆病を卓越した勇気です、そして、安易な愛を超えた冒険への挑戦です。

誰も、ただ歳月だけでは老人にはなりません。人は願望を捨てることによりのみ、老人になるのです。歳月は皮膚にしわを刻みますが、しかし、感動の心には、しわを刻むことはできません。心配と不安と自己不信と恐怖と失望、それは長く、その歳月は、あなたの意志を屈指させ、精気ある魂をも敗北に向けます。

70歳の老人であろうと、16歳の若者であろうと、その胸中には、いつも熱い愛への芽生えと、天空にきらめく驚異と、その輝きにも似た新鮮な驚きと敬愛があり、そして、憶しない挑戦と子供のように求めてやまない探究心と喜びと人生への勝負があります。

あなたは、あなたがもつ正義と同じくらい青年ですか。
(それとも)あなたが抱く疑念と同じくらい老人ですか。
あなたは、あなたがもつ自信と同じくらい青年ですか。
(それとも)あなたが抱く恐怖と同じくらい老人ですか。
あなたは、あなたがもつ希望と同じくらい青年ですか。
(それとも)あなたが抱く失望と同じくらい老人ですか。

この大地から、人類から、宇宙から、美と喝采と勇気と壮麗と力の息吹を心に感じ る限り、あなたは若いのです。

この息吹の糸がすべて切れ落ち、熱意のすべてがペシミズム(悲観主義)の白雪と冷ややかな氷で固く閉ざされる時、その時、あなたは一人の老人であり、そして、神はあなたの魂の上に慈悲を与えるでしょう。

原恭三(はら・きょうぞう)  1954年生まれ。
ペンシルバニア大学院、筑波大学院修了。霞が関に勤務、
Social Innovation、CSR(企業の社会的責任)等に関心。
早稲田大学非常勤講師、日経品質文献賞、APIC論文賞等。