時空の漂白 64 PDF (2011年5月23日)
現代版 幸福考(9) 原 恭三
「プレゼンテーション力とコミュニケーション力」
プレゼンテーションの大切さは言うまでもないが、先日、アメリカのアリゾナ大学教授と講演を一緒にする機会があり、そこで彼らのプレゼンテーションの素晴らしさに感服させられた。内容もそうだが、プレゼンテーションの技法には驚かされた。
日本人は10あることを1しか言わない、アメリカ人は1あることを10あると言うと良く言われる。どちらが正直者かどうかといったことはともかく、人に分かり易く、そして人を飽きさせないプレゼンテーションの技法は日本人もしっかりと学ぶ必要があると改めて思った。
プレゼンテーション(Presentation)
計画・企画案・見積もりなどを、会議で説明すること。プレゼン。
(「大辞泉」小学館)
アメリカでは誰もが様々な方法を駆使してプレゼンテーションのパフォーマンス向上に努める。
米国の大学で講義を受けていた時も、しばしばプレゼンテーションの試験があった。試験当日は、皆、ビシッとスーツを着込み、懸命に自分の研究成果を発表する。その姿には驚かされた。
女子学生が一番綺麗になるのは、パーティーの日とプレゼンテーションの日という人もいるくらいだった。
こんなことを、頻繁にやらされて育つと度胸もつくだろう。
やや古いが厚生労働省「若年者就職基礎能力支援事業」に求められる要件を明らかにする目的で行われた三菱総合研究所の受託調査事業の報告書「企業が若年者に求める能力要件に関する調査研究事業報告書」(平成16年5月)というものがある。
中小企業から大企業、水産・農林業から製造業、金融・保険業、不動産業、サービス業までの約1万1000社を対象にしたアンケート調査で、そこから回収された約1500社の回答が取りまとめられたものである。
単位 % |
全体 |
高卒レベル |
大卒レベル |
差異 |
コミュニケーション能力 |
85.7 |
85.8 |
85.5 |
±0.1 |
基礎学力 |
70.8 |
74.7 |
66.9 |
±3.9 |
責任感 |
64.3 |
66.5 |
62 |
±3.5 |
積極性・外向性 |
59.5 |
57.6 |
61.3 |
±3.5 |
行動力・実行力 |
54.8 |
52.3 |
57.2 |
±4.9 |
ビジネスマナー |
51.7 |
54.6 |
51.2 |
±3.4 |
向上心・探求心 |
42.2 |
38.1 |
43.9 |
±5.8 |
プレゼンテーション能力 |
40.2 |
24.4 |
46.2 |
±21.8 |
取得資格 基本的なパソコン操作 |
35 |
31.6 |
38.4 |
±6.8 |
職業意識・勤労観 |
33.8 |
36.4 |
32.1 |
±4.5 |
柔軟性・環境適応力 |
32.3 |
31.1 |
33.4 |
±2.3 |
専攻した専門的な知識 |
28.3 |
21.3 |
34.8 |
±13.5 |
体力 |
23.6 |
32.7 |
23.1 |
±9.6 |
ストレス耐性 |
21.9 |
18.1 |
21.4 |
±3.3 |
問題発見力 |
19.8 |
12.4 |
25.9 |
±13.5 |
クラブ・サークル活動 |
14.8 |
20.6 |
17.2 |
±3.4 |
取得資格 会計基礎 |
11.1 |
12.4 |
9.8 |
±2.6 |
語学力・英語読解・会話 |
10.2 |
8.2 |
12.1 |
±3.9 |
情報収集力 |
10 |
6.8 |
13.2 |
±6.4 |
アルバイト経験 |
9.3 |
6.7 |
11.9 |
±5.2 |
ボランティア等社会活動 |
3.8 |
3.2 |
4.3 |
±1.1 |
取得資格 パソコン・会計以外 |
0.7 |
0.5 |
0.9 |
±0.4 |
その他 |
1.5 |
1.5 |
1.4 |
±0.1 |
それによると、企業が求める能力は高校卒レベルでも大学卒レベルでもほとんど同じで、「コミュニケーション能力」「基礎学力」「責任感」「行動力・実行力」「ビジネスマナー」(言葉遣い、身だしなみなど)「向上心・探求心」「プレゼンテーション能力」といったことが重視されている。
現在の企業が学生に求める能力ランキング第1位は積極性、2位は責任感、3位はコミュニケーション能力、4位は協調性、5位は健康状態。採用時に重視する能力ランキング(大卒レベル)の第1位はコミュニケーション能力、2位は基礎学力、3位は責任感、4位は積極性・外向性、そして5位が資格取得という調査結果もある。
日本では社会人基礎力として「コミュニケーション能力」が重視されていることが分かる。
ところで日本社会はしばしば「親分子分・先輩後輩」の社会だと言われる。親分や先輩は子分や後輩の面倒を見ないと、場合によっては嫁さんの面倒までも見ないと、子分や後輩から敬遠されかねない社会だと言われる。
それは昔のことで、今は昔とは違うという人も少なくないが、依然として「親分子分・先輩後輩」が底流にあるように思う。
一方、アメリカの社会では、親分が無関係に変わることが少なくなく、「親分子分」の関係はなかなか成立し難い。もちろん「先輩後輩」の関係もである。勢い「個人」と「個人」の関係が日本と比較すると、遥かに大きな意味を持つ社会になってくる。しかも契約社会であり、会社が教会に変身する訳でもないので、自分の一生を会社に捧げようという気は起こらないという。
海外駐在が長い知人は現地での生活ぶりについて、「個人」、「家族」、「会社」の順で大事と言っていたが、まさにそういうことなのだろう。
つまり組織の中での関係よりも「個人」と「個人」の関係がより重要であり、「コミュニケーション能力」「プレゼンテーション能力」がより大きな意味を持ってくるということである。
日本でよく言われる「コミュニケーション・イコール・飲みニケーション」というのは相互の感情を分かち合う行為であり、コミュニケーション能力とするのは誤用である。
それよりは気の利いた会話、そして大切な人とは年に何回かは会うという「生メディア」が大切である。意思疎通が明確に図れるならば電子メールや手紙のみでもコミュニケーションは成立する。このことは、アメリカ社会の中に入って行くほど強く感じてくるものである。
昔、アメリカで生活していた頃、以下のような体験をした。
1.日本の大学で勉強している中国人留学生が、将来アメリカで仕事をしたいので、TOEFL(英語検定試験)で何点取れば就職できるのかと愚問。
2.知人の息子さんの就職試験の面接でのこと、採用担当者と彼とが一時間アメリカンフットボールの話をし、その結果で合否が決まった。嘘のような本当の話である。
3・外資系証券会社に入社した友人は、ニューヨーク本社で12人と4回にわたり面接、東京支店では関係者23人と面接し、採用時でのコミュニケーションの相手の数は並大抵でなかった。
日米関係というと文化の違いのみが強調されるきらいがあるが、雑多な人種と人間が共同生活しているアメリカでは、コミュニケーションの力は、私たちが想像する以上に重要である。日本の大学でもコミュニケーション学科をもつ大学が百校を超えてきた。改めて日本もそんな時代に日本も入ってきた。まずは、奥様からのコミュニケーションから再スタートである。
これから日本社会がグローバル社会の中で生きていくには、外に向けての自己表現力とコミュニケーション力は不可欠である。
コミュニケーション(Communication)
「人間が互いに意思・感情・思考を伝達し合うこと。言語・文字その他視覚・聴覚に訴える身振り・表情・声などの手段によって行う。」
「社会生活を営む人間が互いに意志や感情、思考を伝達し合うこと。言語・文字・身振りなどを媒介として行われる。「——」を持つ。 (大辞泉)