第 4講 商標を保護する国際的な協定(1/2) PDF
細川 学(2006年08月)
第1話 マドリッド協定とリスボン協定
マドリッド協定、リスボン協定とはどのようなものですか
- 1891年にスペインのマドリッドにおいて、商標の国際保護を強化するためにパリ条約第9条及び10条を補完する2つの特別協定が締結されました。虚偽・誤導的な原産地表示の防止のためのもので、マドリッド協定と言われているものです。
- 標章の国際登録に関するマドリッド協定(第9条の強化):スイスのベルンに中央登録局を置き、本国で正規に登録された標章・商号を登録し、加盟国で共通に保護する制度(テルケル商標)
- 虚偽による又は誤認を生じさせる原産地表示の防止に関するマドリッド協定(第10条の強化):加盟国に於いて保護を必要とする生産地、生産物を登録し、他の同盟においても登録された原産地・産物の虚偽表示の防止を約束する制度
- 1958年、マドリッド協定をさらに強化するため、ポルトガルのリスボンで原産地名称の保護と国際登録に関する協定が締結されました。これがリスボン協定と言われるもので、この協定により加盟国の一国で登録し保護された原産地・産物名称は本国での保護を失わない限り無期限に他の加盟国で保護されることになりました。
- これらによって、例えば、CHANEL(シャネル)、Dunhill(ダンヒル)、Gulch(グッチ)などと並んで、日本のトヨタ、ソニー、花王等多くの国際企業の商標も著名商標として国際保護の対象になりました。またワインのフランスのBordeaux(ボルドー)やウィスキーの英国のScotch(スコッチ)も、原産地として、その使用が国際的に保護されるようになりました。
パリ条約第9条、10条とはどういう内容のものなのですか
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- 加盟国は不法な商標又は商号を付した産品を輸入の際に差し押さえる。
- 差し押さえは不法行為を実施した加盟国内でも行う。
- パリ条約第10条の概要
- 原産地・産物の虚偽表示の防止については第9条を準用する。
- 原産地・産物の利害関係人は生産者に限らず、同国に住所を有する自然人、法人にも及ぶ。
商標・商号・原産地について国際的に保護するのはどうしてなのですか
- 商品、商号及び原産地の表示は一般的には「ブランド」と言われています。「ブランド」は消費者が商品、生産地、生産者などを識別する重要な手がかりであり、「ブランド」の保持者にとっては同業他社との差別化のための重要な財産となっています。松坂牛との表示を信用して買ったら実は輸入肉であったとか、ソニー製品を買ったら某国の模造品であったとしたら本当に腹が立つでしょう。
- こうした問題は国内問題にとどまらず国際的な広がりを持っています。たとえばCHANEL(シャネル)、Dunhill(ダンヒル)、Gulch(グッチ)、BURBARRY(バーバリー)等の著名なブランドの商品は人気商品として国際的に広く流通しているために、商標・商号を「属地主義」だけによっていてはとても保護することができません。本家以外の他人の登録又は使用を容認すると、本家ばかりでなく消費者も誤認による被害を受けます。商品の生産や流通には国境がないので、当然のことながら商標・商号についても国際的に保護することが不可欠になりました。
- またBordeaux(ボルドー)はフランスのBordeaux地方で生産されてワインであり、Scotch(スコッチ)は英国のScotch地方で生産されたウィスキーであり、それ以外の地域で生産されたワインにBordeauxと表示されたり、ウィスキーにScotchと表示されたりすると、消費者は誤認による被害を受けます。商品の生産や流通には国境がないので、当然のことながら商標・商号についても国際的に保護することが不可欠になりました。
- こうした真正な産地・産物以外を国際的に取り締まるために、1958年、パリ条約第9条、第10条を強化するリスボン協定が締結されることになったのです。そしてBordeaux以外の地域で生産されたワインにBordeauxと表示すると「原産地の虚偽表示」ということになり、また原料がブドウでない酒にワインのレッテルを貼ると「産物の虚偽表示」ということになり、それが国際的に取り締まられることになりました。
ブランドについてもう少し教えてください
- 2002年9月12日の中日新聞朝刊に「偽バーバリー疑惑」という記事が掲載されました。日本で販売されている英国の「バーバリー」ブランドの商品は、原則として日本のバーバリーの直営店又は正規の代理店が輸入したものです。これが正規の商品の輸入販売のルートですが、それ以外に「並行輸入」という形でも商品を日本に持ってくることが出来ます。「並行輸入」そのものは違法ではないのですが、「並行輸入」で日本に入ってきた商品そのものが偽物ではないかとの疑惑が起きているという事件でした。
同じ値段を払って偽物を掴まされて嘆く人たちがいる一方で、ちょっと見ても分からないし安いからということで偽物を買い求める人たちもいるので問題は厄介です。そんなことから21世紀は偽物の世紀とも言われるようになっています。
しかし、本物と思って偽物を掴まされた人たちや、苦労して築き上げた「ブランド」を勝手に使われるだけでなく、その「ブランド」の価値が損なわれる立場に立たされる企業等にとっては「ブランド」の保護は重要な問題です。
- ②もっとも「ブランド」の価値と言っても、それをどのように評価するかはなかなか難しいことですが、2002年8月に経済産業省から発表された日本メーカの「ブランド」の価値は以下のようになっています。
|
会社名 |
価値(億円) |
1位 |
ソニー |
44,276 |
2位 |
トヨタ自動車 |
20,160 |
3位 |
松下電器 |
16,613 |
4位 |
ホンダ |
16,035 |
5位 |
花王 |
14,272 |
6位 |
日産自動車 |
13,472 |
7位 |
資生堂 |
12,898 |
8位 |
キャノン |
12,015 |
9位 |
セブンイレブン |
11,137 |
10位 |
任天堂 |
9,055 |
並行輸入とは何のことですか
- 大手海外ブランド品の日本での流通ルートはだいたい下図のようになっており、その中で国内正規代理店あるいは国内ライセンス業者を通じて百貨店等に販売する「ライセンスルート」と直営店の「直売ルート」を「正規ルート」と呼ばれています。
- 一方、海外の直営店あるいは正規代理店等で販売されている商品を現地で購入し、それを独自に輸入するというルートもあります。この行為そのものは、海外の直営店等で商品を購入した時点で、その大元の海外ブランド会社の権利はなくなりますので、それを日本に輸入し販売することは違法ではなく、こうした形で輸入することを「並行輸入」、それを行う企業等は「平行輸入業者」と呼ばれています。
- この「並行輸入」された商品がディスカウントストア等で販売され、それが「正規ルート」による販売に影響を与えています。その背景には「正規ルート」での商品の値段が中間マージンなど大きいために高いといった事情があると言われています。その一方で「並行輸入」ということを看板にして偽物が流通しているのではないかという疑惑も提起されています。
海外ブランド品の流通ルートの概要