わが青春の譜(1)(1/3)
山岡浩二郎
序にかえて
思えば、私はヤンマーディーゼル株式会社の創始者、山岡孫吉初代社長のもと、孫吉社長の深い信頼に支えられ、戦後の混乱期にヤンマーの生産再開に携わって以来、今日までの半世紀を技術・経営陣の一角を担って、無我夢中で突っ走ってきた。
三十八歳の時にヤンマーと兼任で社長を引き受けた株式会社神崎高級工機製作所も、本年五月で創業五十周年を迎えることになった。
いま齢八十を目前にして、わが生涯をふりかえってみると、やはり最初に頭に浮かぶのは、孫古社長と共にあった日々である。人はどうあるべきか、事業とは何か、リーダーシップとは何か、故郷を愛するとはどういうことか、奉仕の心とはどんなことを指すか、それらのことごとくを、私は戦後、海軍から復員して、ヤンマーの事業に参画して以来、孫吉社長から日々の生活、仕事のなかで、ある時は言葉で、ある時は態度でいちいち教えられた。
これらの一つひとつを、今日に当てはめてみると、世代の違い、価値観の変化とは無関係に、ヤンマーでは何か大切なところが、すっぽり抜け落ちているような気がしてならない。そんなことを考えているうち、ふっと、私は自分なりに果たしてきたささやかな経験であっても、語りよう伝えようによっては、次の時代を背負って立つ若い人々に対して、何か残せるのではないかと思いはじめた。
そこで、過ぎし日にその都度書きとめていた雑文や寄稿文、講演等で語ったものの中から抜粋して手を加え、整理したのがこの拙著である。
年寄りの繰り言と思われるかも知れないが、私にとっては正直な告白であり、稚拙な文でお読みずらいことも多いだろうが、気軽に目を通していただけるなら過分の幸いである。
一九九七年五月