第 3講 知的財産権を守る世界の仕組み(3/3) PDF
細川 学(2006年08月)
第3話 知的財産権に関するパリ条約以外の主な条約
パリ条約以外に、知的財産権についてはどのような国際条約があるのですか
- 特許関係では1970年6月にワシントンで調印された「特許協力条約」(PCT Patent Cooperation Treaty)があります。日本は1978年に加盟しました。この条約により、たとえば、保護を受けたい国々を指定して日本の特許庁(受理官庁)に日本語で「国際出願」すれば、その出願の日に各指定国で出願したと同一の効果が得られることになりました。それまでは日本から外国に特許出願する場合、パリ条約に基づく優先権を主張し、各国毎にその国の言語で出願しなければならず、そのため翻訳料を含め多額の特許権取得費用が必要とされました。さらに、それまでは各国の特許庁はそれぞれ独自に審査しなければなりませんでしたが、各国の特許庁は国際調査及び国際予備調査を協力して行う体制が整備され、それによって各国の特許庁の審査負担も軽減されることになりました。出願人も出願時にはともかく出願国を指定し、実際に出願するかどうかは、国際予備調査の結果を踏まえて、一定期間内に決めれば良いことになり、作業量と費用も大幅に軽減されることになりました。詳しくは第7 講「特許法」で説明します。
- また「植物新品種保護のための国際条約」(International Convention for the Protection of New Varieties of Plants)というものがあります。日本は1982年に加盟しています。その他、ブダペスト条約(特許手続上の微生物寄託の国際的承認 1977)、ハーグ協定(意匠の国際寄託 1925)、マドリッド協定(商標の国際登録 1891)などがあります。なお、マドリッド協定により、商標の国際登録機関が設けられ、国際登録を希望する者は各国の特許庁を通じ、指定領域を定めて国際登録を出願します。出願を行うと自動的に国際登録され、指定領域の国は各国の国内法令により審査し、拒絶の理由のない出願について自国で商標権として登録するという仕組みになっています。詳しくは第10講で説明します。
- さらに著作権に関する基本的条約としてはベルヌ条約(正式には、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)があります。1886年スイスのベルンで締結された後、何度も改正されてきています。新しいところは1986年に調印されたコンピュータプログラム、データベース等の保護に関するベルヌ改正条約などがあります。これらの条約に伴う日本の著作権法については第12講で説明します。