第 1講 今なぜ知的財産権が注目されるのか(2/4) PDF
細川 学(2006年08月)
第2話 知的財産権の保護の課題
知的財産権の保護に関して、日本ではどんなことが課題になっているのですか
- 日本は商品の貿易収支は大幅な黒字(入超)ですが、知的財産に絡む技術収支は極端な出超でしたが、最近は黒字に転換し始めています。
- しかし、それは主として日本企業の海外進出に伴う日本企業の海外子会社からのライセンス収入増によるものです。日本は「もの作り」では優れていますが、新しいアイデアや技術などを先行して研究開発すると同時に、それを普遍的な知的財産という形にまでまとめることに関しては、これまで不得手であったと言えます。それは日本の国民性や社会構造等に起因しているように思います。
- ちなみに米国ではソフトウェア、遺伝子組替等のバイオテクノロジーなどの分野で革新的な新技術が次々に生み出されました。これらが米国がプロパテント政策への転換の引き金になったと言われています。
- インターネットとパソコンの普及により情報が、これまでと比べられないほど世界中で短時間に情報を共有できる社会になりつつあります。その中にあっても、そういう影響を受けないというか、享受できない人たちが現実にはたくさんいるというのも事実ですが、こうした情報を共存できる人たちは世界中で間違いなく急増しています。少なくとも、一般の人たちはともかくとして、世界各国の政府や企業など行政やビジネスに密接に関わっている人たちには、隅々まで行き渡るような時代になっています。
- そういう時代背景を前提にすると、もちろん数学や理論物理などの分野で世界的な貢献を果たしている人たちがいることも事実ですが、どちらかと言うと、日本の多くの人たちは見えるものをベースに改良開発を得意であって、それが国民性のようにも思えます。さらに、見えないものに挑戦と、その成果を世界に通用する普遍的な知的財産として形にすることも不得意のように思えます。そうした弱点を認識すると同時に、それを克服するための努力が、現在、日本には求められていると思います。
世界の潮流がプロパテントに向かっている中で、日本は、その長所を伸ばし、短所を克服することができますか
- これまで追従型研究技術開発を得意としてきた日本にとって、先行型研究開発・技術開発に変身することは決して容易なこととは思えません。しかし、世界の潮流がプロパテントに向かっている中で、それに日本だけが抵抗することはできません。
- それに拍車を掛けているのがインターネットの普及に伴う世界レベルでの情報の共有化です。日本も受け身で知的財産権を主張するということではなく、積極的に知的財産権を主張する、その基盤として先行型研究開発・技術開発に注力し、その成果を世界に通用する知的財産権として理論的に整理し、主張するという姿勢が求められています。
- つまり、どちらかと言えば日本は追従型研究開発・技術開発が得意で先行型研究開発・技術開発は不得意だったのですが、プロパテントに移行せざる得なくなり、先行型研究開発・技術開発の国家に変えることが緊急の課題になったので政府は知的財産戦略会議を発足することになったのです。
- 現在、日本は産・官・学が一致協力し、プロパテントに対応する先行型研究開発・技術開発への移行を進めています。先行型研究開発・技術開発に資源の重点配分が行われるようになっています。こうした努力が継続的に行われれば、いずれ日本にも先行型研究開発・技術開発で成果を上げる研究所や企業が増えてくるでしょう。