わが青春の譜(9)(2/5)

山岡浩二郎

パーキンス社・他訪問記

英国ではまずハーバートグループの工場を訪ねた。この会社はその少し前に企業合同し、アメリカ企業との提携等、あらゆる意味で大きく脱皮した英国第一の工作機械メーカーであるが、かねて知り合いのノーマン副社長をはじめ会社トップの方々からていねいに説明していただいた。同社はハーバート家によってつくられて百数十年が経ち、さらに繁栄を続けている会社で内容をくわしく知ることができ、工作機械をつくるうえだけではなく、経営的な視点からもたいへん参考になった。

ハーバートグループのノーマン副社長(右)と

次がハプニングのように訪れたパーキンス社である。この会社はGMとフォード社を除くと世界一のディーゼルエンジメーカーであるが、昭和二十八年(一九五二)ヤンマーの孫吉社長とはじめて訪問して以来、何とか緊密な関係を築き上げたいと訪欧の機会あるごとに訪問、誠意を尽くした結果、ようやく親戚づきあいができるようになった会社である。オーストラリア、フランス、イタリア、ブラジルに工場かあり、直営サービス拠点はアメリカ、カナダ、ドイツ、南アフリカにあり、提携会社はアルゼンチン、メキシコ、ブルガリアに、そして生産販売拠点はインド、日本、スペイン、トルコと全世界に手を広げている会社で、以前、ロータリーディーゼルエンジンを開発したのもこの会社であった。

バーキンス本社工場

バーキンス社の迎賓館

幸い、そのときパーキンス社のプリッチャード社長の紹介で、年に一回、会社を巡視に来られる親会社のマッセイ・ファーガソン社社長のアルバート・ソーンーボロー氏にもお会いでき、あわただしい旅の中、城のような迎賓館で、幹部の方々と夕食をともにすることができた。

このときの話では、パーキンス社では、一日におよそ千二百台のエンジンと、ノックダウン用のンジン四百五十台を生産しているとのことだった。またエンジンの種類も千六百近い数があって(ヤンマーもエンジンの種類分多いといっているが問題にならない)、七千台のエンジンをたえずストック、しかもコンピュータ操作で出荷ラインに送る自動倉庫を、この時期、すでに一年前に完備させていた。

案内していただいた生産技術担当部長のファインディング氏の説明によると、設備機械への投資は、年間約三十六億円。現在もっとも売れているエンジンは、加エラインでは二分サイクルタイムで一日二百四十台を加工しているが、これを目下一・三分サイクルに改造する予定で、すでに設備機械の入れ替えを行なっているとのことであった。

V8のエンジンを専門につくっている工場も見せてもらったが、ここでは週一度、組み立ての終わったエンジンのうちから何台かを抽出してバラし、一台のエンジンから一グラム以上のゴミが出ていないかどうか、目標値を定めてチェックしていると聞き驚きかつ感心した。私たちは工作機械をつくるうえで、はたしてそこまで考えてやっているだろうか。とくにこれから重切削になる場合、ベアリングをはじめ各擢動部におけるゴミ対策が重要な問題になることが予想されるだけに、深く考えさせられたのである。目標値を掲げてチェックすることもさることながら、毎日チェックすることの重要性をも痛感させられた。

左からアルバート・ソーン・ボロー氏(左)、プリッチャード氏(中央)と(バーキンスの工場内で)

また、八百種類ほどの異なったフライホールも製作していたが、ここでも参考になる点は多々あった。ちなみに、パーキンス社がある地域の賃金を聞いたところ、熟練の技能者で標準週給二十五ポンド、当時の日本円に換算すると月額約八万六千円ということだった。