印刷 文化と文明の関わり(7/11)PDF
元凸版印刷株式会社 河野 通
石版多色印刷 すべて手作業
写真術の登場
網点による調子の再現
話は前後するが、HBプロセスという写真製版技術が1909年に特許を取得するはるか以前に写真術は発明されていた
写真術の発展は1839年に仏のルイ・ジャック・マンデ・ダゲールによって発表された「銀板写真」によるところが多い。その10年以上前に世界最初の写真が撮影されたというが、露光時間は数時間もかかり、とても実用化できるものではなく、それがダゲールの「銀板写真」によって露光時間は数分で済むことになり、実用化されることとなった
と言っても湿版写真で感光度は低く、液体の薬剤を使用して撮影現場で乾板を作らなければならないというものだった。それでも見るものすべて見たままに写し取れるということで世界中に急速に普及した。日本でも幕末に下岡蓮杖などにより研究され撮影された写真が残っている
この写真を印刷に使う試みがいろいろ行われ、以下の2方法が考え出された
・連続的な色の濃淡(階調)などを、「網点」(小さな点の大小などで表すもの)で変えるインクの塗布される量を二次元の面積を基礎にする方法(1880年、米国のアイバス発明)・版の彫りの深さで変えるインクの塗布される量を三次元の容積を基礎にする方法、グラビア法(1895年、英国のカール・クリック発明)である。この2方法が基礎になり、それに前述の版のレタッチ(加筆修正)に絡むHBプロセスが加わって、印刷技術は飛躍的に向上することになった
なお、1996年ライフ創刊60年を記念して60年間の表紙の中から選んだ400点をMITの開発したフォトモザイク・ソフトを使用して作られたのが、左掲の表紙である。網点で調子が再現できる一例である。
多色写真製版
ところで現在、普通に使われている多色写真製版が実用化するまでには、幾つかのステップが必要であった。代表的なものだけ上げても以下の通りである
- 1883年、3原色ですべての色が再現できることが判り、撮影時に3原色のフィルターを通して原稿を撮影し、それらの重ねることで元の色を再現する3色分解法が独のE・アルバートにより発明された
- 1909年、米国のウイリアム・ヒューブナーとブラインシュタインにより2人の名前の頭文字をとってHBプロセスと呼ばれる写真製版法が発明された
- 1950年頃、米国のタイムライフ社により電子的にフイルムを走査して色分解し、網ポジや網ネガとして出力するスキャナーが発明された
- 1963年、グラビヤや凸版も電子的に直接銅のシリンダーや板に彫刻して整版する機械(ヘリオクリショグラフ)が発明された
- 1979年、イスラエルのサイテックス社により、コンピュータによるデジタル画像処理時代の幕開けとなった、すべての画像データをデジタル処理するレスポンスシステムが発表された
そして1990年以降、コンピュータの処理能力の向上、低価格化と相まって、DTP(Desk Top Publishing:パソコンなどを利用して、出版物の企画・デザイン・版下作業などを行うこと)により文字と画像データが同時に扱えるようになった。手作業時代の時代と比べて、文字・画像データの回転、移動、拡大縮小、切り抜き、合成が格段に容易になった。
多色写真製版
コンピュータ(デジタル技術)でできるようになったこと
合成 回転・移動 拡大・縮小 ブラシ効果