印刷 文化と文明の関わり(3/11)PDF

元凸版印刷株式会社 河野 通

大航海時代の地図(オルテリウスの世界図)

印刷博物館 040

1570年オルテリウスは世界で初めて世界地図帳「世界の舞台」を出版した。ここに日本がはじめて地図上に登場する。この本はその後42年間に42版を数え、ラテン語をはじめヨーロッパ7ヶ国語で出版された。

多言語対訳聖書(1514頃バチカン教皇庁図書館)

印刷博2 006

ヘブライ語、アラム語、ギリシャ語、ラテン語で書かれている。スペインで印刷された。

天正少年使節団が招来した活字印刷本(キリシタン版)

印刷博2 001

1590年5人の少年がローマに赴き法王に謁見し印刷機を持ち帰り日本語の活字を作り仮名漢字混じりとローマ字の本を出版した。それらは今でもローマのヴァチカン教皇庁図書館や天理大学などにある。彼らは独自に日本語の漢字と平仮名、ローマ字のアルファベットもつくり仮名混じり漢字及びローマ字の本を印刷した。38点ほどが今に残る。宣教師に日本の文化や風習知らせるためのものと、信者にキリストの教えを伝えるものとある。

東洋の印刷文化

  • 中国 木版(整版)が主流
  • 朝鮮 銅活字による経文印刷 現存する世界最古の活版印刷物
  • 日本 百万塔陀羅尼  現存する世界最古の記録
  • 紙は中国の蔡倫により102年頃に発明されたと言われる。以前は、絹とかボロをほぐして薄く平らにしてそれを書写に用いていた。それを改良したのが蔡倫らしい。紙の普及とともに護符(ごふ)などを木版(もくはん)で刷るようになる。中国では古くから石碑を作り文字を刻み、それの拓本(拓本)を取って広めた。それが木版に文字を刻み、それ刷るということが行われた。
  • 続いて活字も11世紀始め、中国の畢昇が陶器活字、また王禎が木活字を作ったと伝えられる。朝鮮では高麗時代の1377年銅活字を鋳造し、「白雲和尚抄録佛祖直指心体要節」が印刷された。これは現存する世界最古の活字印刷物である。現在只一部がフランス国立図書館に保存されている。
  • 以後18世紀まで何度も主に銅活字が鋳造され、それを使って印刷された。
  • なお、日本で一番古い(現存し、記録があるものとしては世界で一番古い)印刷物として有名なのは法隆寺などに伝わる「百万塔陀羅尼」である。称徳天皇が770年10大寺に10万部ずつ「陀羅尼経」を印刷して収めた。印刷方法には諸説があるが版木から判子のように押捺したと考えられている。チベットでは現在でも経筒にいれる経文を版木で摺っている。法隆寺のものだけでも数種類の印刷がある。

朝鮮の印刷銅(銅活字による印刷)

白雲和尚抄録佛祖直心体要節 1337年

印刷博2 002

日本の印刷文化

中国、朝鮮からの渡来文化と日本独自の発達

  • 日本には、仏教の来により経典の印刷が必要になり、まず中国の「版木」による印刷がもたらされた、その後は主に平安貴族による仏教の経典の印刷や、東大寺や興福寺のようなお寺を中心に「木版」による印刷が行はれた。いわゆる「春日版」である。また鎌倉時代、鎌倉や京都の禅寺を中心に「五山版」が刊行された。戦国時代には大内や今川など戦国大名や堺などの都市でも経文だけでなく論語などの漢籍、医書や節用集という百科辞典のような「実用書」も出版された。
  • 16世紀キリスト教の普及のため宣教師のバリニアーノが天正少年使節団として知られる5人の使節をローマに送り(1582~1590年)その従者の1人コンスタンチノ
  • ドラードといわれる人物に印刷を学ばせ、帰国と同時に島原で印刷を始めた。ローマ字と漢字と平仮名しかも連綿体の平仮名の活字を作っている。キリシタン版として現存する印刷物は38種類に上る。キリシタン禁止令の中、短期間にこれだけの成果を上げているのは現代から考えても驚嘆に値する。
  • 1592年秀吉の朝鮮出兵により朝鮮の銅活字が日本にもたらされ朝廷に献上されたと考えられている。1593年後陽成天皇が古文考経の印刷を命じている。その後日本書紀や四書など所謂慶長勅版、また家康により伏見版が1599年開版。この文字は木活字で円光寺に現存する。(東西の印刷技術が混合する。)

百万塔陀羅尼(世界最古の印刷物)

印刷博2 012

「百万塔陀羅尼」は恵美押勝の乱の鎮圧を三宝に感謝して、770年に元興寺、大安寺、興福寺、薬師寺、東大寺,西大寺、法隆寺、四天王寺,弘福寺、崇福寺に10万本ずつ合計100万本の木製の塔を作りそのなかに陀羅尼経を摺って収めた。

法隆寺に残り、明治の廃佛棄釈のとき一部売りに出された。世界一古い印刷物として知られる。木版でハンコのようにインキをつけて押し付けたと考えられている。

大英博物館には敦煌で発見された886年印刷の金剛般若羅密経がある。

「百万塔陀羅尼」は凸版印刷も「印刷博物館」で常設展示されている。